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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

本邦初、「マトリ」のドキュメントが登場

 カルロス・ゴーン被告の国外逃亡については、誰もが「映画みたい」と思ったことでしょう。私が連想した映画は『オーシャンズ11』『シシリアン』あたりでした。
「映画みたい」ということで言えば、1月新刊『マトリ―厚労省麻薬取締官―』(瀬戸晴海・著)も、まったく負けておりません。
 著者は40年近く違法薬物と闘ってきた元・厚労省麻薬取締官。そのキャリアを振り返った本書は、まさに映画のようなエピソードの連続です。冒頭、描かれるのは道路舗装用のロードローラーに隠した薬物を発見するシーン。発見、といっても隠匿場所は前輪にあたる巨大な鋼鉄のローラーです。これに電動カッターで火花を散らしながら穴を開けると......。

 有名人の逮捕の時によく聞く「マトリ」の方々がどんな苦労をしながら捜査を進めているか、本邦初の当事者による貴重なドキュメントです。

 他の3点もご紹介します。

「人生百年」という不幸』(里見清一・著)は現役の医師による遠慮一切抜きの現代医療論。医学が進歩し、平均寿命はどんどん伸びたが、それが本当に人々の、社会の幸福につながっていると言えるのだろうか。そんな疑念を少しでも持ったことのある方にはぜひ読んでいただければと思います。また逆に「長生きを悪く言うなんてけしからん」という方にもぜひ読んでいただければと思います。

興行師列伝―愛と裏切りの近代芸能史―』(笹山敬輔・著)は、松竹・吉本・大映・東宝の創業者たちの波瀾万丈の人生やライバルとの仁義なき戦いを、膨大な資料からドラマチックに描いた作品。ヤクザや官との癒着、札束攻撃、二枚舌......昨今の芸能事務所のスキャンダルが可愛く見えるエピソードの連続です。

「反権力」は正義ですか―ラジオニュースの現場から―』(飯田浩司・著)は、ニッポン放送の人気番組「飯田浩司のOK! Cozy up!」(月〜金午前6時〜)のパーソナリティによるニュース論にして初の著書。別に「権力に逆らうな」「政府バンザイ」という話ではなく、「最初に権力批判ありきで取材、報道をしていいのだろうか」という疑問を呈したタイトルです。アナウンサーでありながら、全国各地に自ら取材に出向いてきた著者の真摯な姿勢が結実した刺激的な論考になっています。

 そういえば、昨年、沢尻エリカが薬物で逮捕された際にも、「自分たちのスキャンダルを隠すための政権の陰謀だ」という説を唱える人がいました。元首相にもそんな人がいました。「反権力」を基軸にものを考えると、すべてがそんな風に見えるのかもしれません。
 すでに『マトリ』を読んでいた私は「捜査ってそんなことで左右されるほど甘いもんじゃないだろう。現場の方々を馬鹿にするな」と勝手に義憤を感じたものでした。

 今年もいろいろ物議を醸す新書を出していきます。
 新潮新書をよろしくお願いいたします。
2020/01