新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

山本先生の話

 3月29日、東京大学史料編纂所教授の山本博文さんが、がんのため亡くなりました。63歳という若さでの急逝に、編集部も衝撃を受けました。
 数多くの著書がある山本さんの最後の作品となったのが、4月新刊の『「関ヶ原」の決算書』です。昨年『決算! 忠臣蔵』のタイトルで映画化もされた『「忠臣蔵」の決算書』に続く、「決算書」シリーズの第2弾にあたります。
 中身はタイトルの通り。あの合戦で誰がいくら得をしたのか、損をしたのか。戦は何にどれだけのコストが必要なのか。天下分け目の合戦を「お金」という視点で分析した、実に面白くてためになる1冊です。これも映画化して欲しいものです。
 山本さんは、この本の原稿の直しの作業を亡くなる直前までなさっていました。この後、『「明治維新」の決算書』等、シリーズを続ける構想も持っていらっしゃったそうです。シリーズ第3弾を読めなくなったことは、本当に残念です。

 他の新刊3点をご紹介します。
私の考え』は、テレビやSNSからの情報発信でお馴染みの国際政治学者、三浦瑠麗さんが、専門分野の政治から私生活まで、思うところを率直に綴った論考集です。余計な忖度をしない率直な物言いが人気の三浦さんですが、その理由がよくわかる一文が前書きにありました。
「人生は一回限り。人間、迷ったら本音を言うしかない」

昭和史の本質―良心と偽善のあいだ―』(保阪正康・著)は、昭和を生きた作家たちの言葉をとっかかりに、あの戦争、あの時代を検証するという試み。
「国民の九割は良心を持たぬ」――現代においてこんなことを有名人がツイートしたら大変なことになりますが芥川龍之介先生であり、またかつての日本だから許されたわけです。こうした際立った一言から、昭和の本質を読み解いていきます。

人間の品性』は、『家族という病』等のベストセラーで知られる作家、下重暁子さんによる大人のための教養書。お金があっても、学歴があっても、地位があっても、年を重ねても、品がない人にはない。そう言われて、具体的な顔が浮かぶ方も多いことでしょう。どのように考えれば、振る舞えば、生きれば「品」というものを保つことができるのか。過去の恋愛の話もまじえながら優しく語ってくださいます。

 無音でテレビをつけていても、口の動きでアナウンサーの第一声が「新型......」だというのがわかるようなご時世になっています。知っておくべき情報も多いでしょうが、そればかりでは気が滅入ってしまいます。
 どうかこの新刊が、気分転換に役立つことを願っております。

 今月も新潮新書をよろしくお願いいたします。
2020/04