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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

10年後の光景

 10年前の大震災の際、「震災婚」が話題になりました。あれから10年、今回のコロナ禍では、婚姻数も出生数も戦後最少にダウンしたと報じられています。心理的な絆の大切さが強調された震災とは逆に、物理的な距離が求められる感染症ならではの現象でしょう。
 非婚も少子化も国の将来にとっては大きな問題ですが、有限な時間を生きる個人とは本来、別もの。今月の新刊『独身偉人伝』(長山靖生・著)では、恋多き人生を全うするため、世を正しく導くため、社会を作り変えるため、それぞれの信念で単身を貫き、偉大な事績を遺した古今東西の「おひとりさま」19人の生涯をたどります。
 何かと世間を騒がせた落語界のレジェンド・立川談志さんが他界してから、もうすぐ10年。『談志のはなし』の著者・立川キウイさんは、16年に及んだ前座暮らしを通して、弟子の中でも最も長く師匠と時間をともにしました。「情報を疑え、常識を疑え、地球儀なんぞ信用するな」などなど、独特の金言や戒めの数々、高座や著書では分からなかった「ふだんの談志」にホロリとさせられるエピソードが満載です。
中国「国恥地図」の謎を解く』(譚ろ美・著)では、中国人を父に持つノンフィクション作家が偶然、教科書で目にした一枚の地図をめぐり、執念の調査と取材を続けます。昨今、世の中にあふれる嫌中本を俯瞰的な「鳥の目」とすれば、こちらは徹底した「虫の目」ルポ。近隣の国々を呑み込み、日本の南西諸島や南シナ海を囲い込む、異様なまでの領土的野心の起源は一体どこにあるのか、その謎を解き明かします。
 少し、よろしいですか? ――ふだん、私たちが見知らぬ人にそう声をかける場面はそう多くありませんが、警察官は日々刻々、全国津々浦々で、こうした声かけを行っています。一見じつに地味な仕事ですが、犯罪防止や不審者の発見、時には容疑者の摘発にいたることも。元警察キャリアの作家・古野まほろさんによる『職務質問』では、その法的位置づけから実地のノウハウまで、リアルかつスリリングに解説します。
2021/10