新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

時代の空気

「もうみんな2回接種済ですよね、マスク外して話しましょうか」、「少し早い時間ですが、久々にビールでも飲みましょうか」。コロナ禍も第五波が収まり、打合せの際にも、つかの間ほっとした空気が戻ってきました。もっとも、これがコロナ前のような時代の空気に戻るのかどうか、そうだとしても長い時間がかかりそうな気がします。
 11月新刊の『平成のヒット曲』は1989年から2019年、美空ひばり「川の流れのように」から米津玄師「Lemon」まで、30年余りを彩ったヒット曲を通して見えてくる、「平成という時代」の評論集。バブル後の1990年代からデジタルが主流になる2000年代以降にかけて、社会や世相、大衆心理がどう変わったのか、ポップス評論家の柴那典氏が分析します。歌は世につれ、世は歌につれ、とはよく言われる言葉ですが、その意味では今の状況もまた、音楽に何らかの影響を与えずにはいないでしょう。
最強脳―『スマホ脳』ハンセン先生の特別授業―』(久山葉子・訳)は、55万部を突破したベストセラー『スマホ脳』の著者アンデシュ・ハンセン氏が、ネットやSNSに熱中し、スマホを手放せずにいる10代の青少年に向けて書いた、親子で読める対策篇。脳機能の基本的なメカニズムとともに、大事な将来をダメにしないための対策を教えてくれます。考えてみると、幾万年も荒野のサバンナで生きてきたヒトが、デジタル文明に取り囲まれて暮らすようになってたかだか数十年、唯一無二とも言うべき、最強の脳を作る方法とは意外なぐらいにシンプルです。
コロナ後―ハーバード知日派10人が語る未来―』(佐藤智恵・編著)は、米ハーバード大学で知日派として知られる10人の著名学者が、ポストコロナの日本が目指すべき道筋について多角的に論じます。複数の知識人がコロナ以後の人間社会のあり方を考えるという企画は昨年中からよく目にしますが、その多くは俯瞰的な文明論や抽象的な提案にとどまります。わが国の経済や社会、さらに日本人的な思考様式をよく知るハーバードの知性が2030年の展望や、これからの戦略を平易な言葉で語っています。
2021/11