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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

リアルとイメージとあいだ

 しばらく見ないと思っていたら、オミクロン変異株で再登場。テレビニュースではお約束の、新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真です。この2年間、何度となく目にしているあの画像、ではウイルスがあの大きさだとしたら、隣にいるアナウンサーはどのくらいの大きさになるのか――養老孟司さんの最新作『ヒトの壁』によると、何と約1000キロ、つまり東京から札幌ほどの距離になるのだとか。
 この例には、事物の認識、解釈や予測など、リアルよりイメージにとらわれがちな現代人らしい盲点が象徴的に示されているといいます。「コロナウイルス」「不要不休」をめぐる考察からはじまる本書は、ヒトが人であるがゆえに突き当たらざるをえない様々な壁について考察を深めていきます。自身が死の淵をさまようことになった心筋梗塞の体験、長年の相棒だった飼い猫まると死別など、84歳の知性がコロナ禍の2年間を通して考え抜いた、人間哲学にあふれた一冊です。
 北川央大坂城―秀吉から現代まで 50の秘話―』では、今年90周年の記念イヤーを迎える大坂城にまつわる歴史秘話を大公開。大坂城天守閣館長の著者が、秀吉をはじめ豊臣家とゆかりの武将たちの時代から、明治維新を経て近代から現代まで、歴史好きにもあまり知られていない50のドラマを最新の研究成果を交えてつづります。淀殿と秀頼、真田幸村や後藤又兵衛、家康によって落城した冬・夏の陣をめぐるエピソードなど、司馬遼太郎の名作『城塞』を読んだことのある方なら、現実は想像よりも奇なり、と思うかもしれません。
官邸は今日も間違える』の著者・千正康裕さんは元厚労省キャリア官僚で、前著『ブラック霞が関』で、官僚たちの壮絶なほどの過重労働を白日の下に晒しました。エリートのイメージとはほど遠いそのブラックぶりは国会でも取り上げられ、環境改善に向けて大きな一石を投じました。本書はいわばその続編で、安倍・菅両政権によるコロナ禍中の官邸政治によって、官僚たちがいっそう困惑の度を深めていく様子をリアルに活写。バラマキ給付金、アベノマスク、接触アプリ、Go Toなど「謎政策」はなぜ相次ぐのか、その構図と背景を解き明かします。
2021/12