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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

2022年の始まりに

 あけましておめでとうございます。今、この文章を書いているのは2021年12月24日のクリスマスイブ。毎年この時期、新聞は新年用の原稿、雑誌は合併号、テレビは特番、というように、メディアそれぞれに年末年始の休みを見込んで、にわかな忙しさに追われます。そして、もうすぐ印刷を終える頃合いの1月刊・新潮新書は以下の4点です。
イクメンの罠』(榎本博明・著)は、自身二人の子を育てた教育心理学者による最新作。今年以降、男性育休に加えて産休制度などイクメン推進政策が相次ぎますが、他方では、父親が「やさしく、笑顔で、いつも一緒に」=母親と似たような役割を演じることで、精神的自立が遅れる子どもが増えているのだとか。「3歳でイクメンをやめ、父親になる」――共働き家庭がデファクトの今、父親像の再考をうながします。
「やりがい搾取」の農業論』(野口憲一・著)は、前著『1本5000円のレンコンがバカ売れする理由』から、さらに日本農業全体へと視野を広げた意欲作。民俗学者にしてレンコン農家という「二刀流」の論客が、戦後ずっと変わらない「豊作貧乏」=穫れるほどに値は下がり収入が抑えられるという構造や、農家のかけた手間暇が価格に転嫁されない「有機農業」の問題など、作り手の努力を軽視する消費者目線の「搾取の構図」を鋭く分析します。
日本の近代建築ベスト50』(小川格・著)は、建築雑誌の編集一筋60年のプロが、多くの写真とマニアック解説で綴る「すぐ見に行ける」名建築ガイド。東京2020で最も衆目を集めたのが隈研吾設計の国立競技場なら、1964年東京五輪での最大の建築遺産は、丹下健三による国立代々木競技場でした。パソコンもない時代、気の遠くなる構造計算にはじまり、「日本の名誉のために」と莫大な予算を認めた田中角栄の後押しもあり、かの優美な戦後建築の最高傑作が完成。そんなエピソードがいっぱいの、街歩きに必携の一冊です。
日本依存から脱却できない韓国』(佐々木和義・著)は異色の韓国レポート。少し前、大統領と与党の旗振りもあり韓国を席巻した「反日不買」。しかし、騒々しいスローガンとは裏腹に、デモ隊を先導するプリウス、ユニクロに行列する若者、街を行き交うヤクルトの女性配達員、日本ブランド瓜二つのブドウやイチゴ等など、かの国の衣食住に深く浸透する「日本」。3月の韓国大統領選を前に現地駐在の著者が戦時賠償や半導体材料など外交目線とは異なる、驚きの日本依存の実状を現地からレポートします。
 本年も新潮新書を、どうぞよろしくお願い申し上げます。
2022/01