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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

混迷する時代の空気の中で

 

 史上最多の五輪メダル獲得、猖獗をきわめるデルタ株、甲子園出場を決めた47代表の歓喜、グリップを失いつつある政権運営......目もくらむような酷暑の中、日々目にするニュースのベクトルもかつてなく混迷しているようです。
 そんな時代の空気にどう応えるか、8月新刊のイチ推しは『楽観論』(古市憲寿・著)です。週刊新潮の人気連載「誰の味方でもありません」をまとめた本書には、平成から令和の御代替わり、起伏の多いコロナ禍の2年間を中心に、毎回タイムリーなワンテーマと「考えるヒント」が満載、ドキュメントとして読み返すこともできます。いくら悲観しても怒ってみても答えは未来にしかない、という覚悟には今、つよい説得力があります。
 MLBでの二刀流・大谷翔平選手の大活躍と、夏の甲子園開幕を目前にしてオススメの一冊が『甲子園は通過点です―勝利至上主義と決別した男たち―』(氏原英明・著)。ともに高校時代からメジャー志望を公言し、甲子園→プロ野球→メジャーリーグ、今年はMLBオールスターにも選出された大谷と菊池雄星。故障を危惧して県大会決勝の登板を回避した佐々木朗希、同じく天理高の達孝太など、才能ある選手にとって甲子園はもはや夢の到達地点ではなく、通過ポイントに過ぎなくなっています。伝統的価値観を打ち破るニューウエーブを徹底取材で紹介します。
日本大空襲「実行犯」の告白―なぜ46万人は殺されたのか―』(鈴木冬悠人・著)は、保阪正康氏が推薦する、終戦の夏に読むべき戦争秘録。東京をはじめ都市部への空襲と原爆投下で命を失った46万人、国際条約に反する民間人無差別殺戮はなぜ実行されたのか、NHK「BS1スペシャル」ディレクターが、半世紀ぶりに発見された米将校246名・300時間の証言テープを分析し、大空襲の背後にあった米空軍の隠れた目的を浮き彫りにします。
 苦い過去を思い起こすとともに近未来への警鐘としたいのが、『中国「見えない侵略」を可視化する』(読売新聞取材班・著)です。ハイテク技術など知的財産の窃取、情報通信への監視と介入、ウイグルでの人権蹂躙......アメリカはじめ国際社会からの厳しい批判にも否定と無視を貫く超大国。その脅威を煽る本は昨今多々刊行されますが、本書は、読売新聞が部署を横断した総力取材でまとめた渾身の最新レポート。話題の「千人計画」から、深刻な脅威にさらされる日本の経済安全保障の実状まで、酷暑に背筋が寒くなる内容です。
2021/08