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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

今月をもって通巻1000号に到達

 副業、複業、二枚目の名刺、ダブルキャリア、パラレルキャリア――近年そうした言葉がよく聞かれます。バブルの頃、「24時間戦えますか」というフレーズが流行りましたが、仕事一筋や出世第一の企業戦士とはまるで違うワークスタイルのすすめ。たしかに、ベテランになっても業務は増え続け、給料は上がらず、デジタル進化で入社以来積み上げてきた仕事術が効かなくなりつつある、そんな中高年には訴えるものがあります。
 6月新刊『キャリア弱者の成長戦略』(間中健介・著)は、ライター、派遣社員、議員秘書、政策コンサルタントなど、様々な職種と挫折を経験してきた著者(現在、慶應大学特任助教)が、「マネー」「デジタル」「敵」「キャリア」に強くなるための23の戦略を示します。会社員であること自体がリスクになる現代、「自分もキャリア弱者」と語る経済社会保障政策アナリストによる初の著書は、思考法がメインの自己啓発とは一線を画した、40代でも始められる超実践的アドバイスにあふれています。
フィリピンパブ嬢の経済学』(中島弘象・著)は、文筆家として会社員として、二足のわらじで歩む稀有なキャリアから生まれたドキュメント。2017年刊行の『フィリピンパブ嬢の社会学』では、著者が大学院在学中に研究対象だったパブ嬢と恋に落ち、数々の試練を乗り越えついに結婚。続編となる本書では、妊娠、出産、育児、就職、転職、母国への仕送りなど、試行錯誤を重ねながら温かい家庭を築いていく様子がユーモラスに描かれます。
学習院女子と皇室』(藤澤志穂子・著)は、曾祖母から四代にわたって学習院出身という著者が、「学習院女子」の視点からノブレス・オブリージュの現代的な意味を問いかけます。秋篠宮家からは「脱・学習院」的な志向性も伝わってきますが、皇族に仕える華族のためにつくられた学校としての役割はすでに終わったのでしょうか。秋篠宮家の眞子さん結婚をめぐる騒動から、独特な教育方針と歴史、著名OBのインタビューまで多角的にひもときます。
ウクライナ戦争の軍事分析』(秦郁彦・著)は、第二大戦期の日本軍を中心とする軍事史の第一人者が、泥沼化していく「プーチンの戦争」の野望と誤算をあざやかに読み解きます。多種多様な思惑と憶測がとびかう政治、外交など地政学的側面からはあえて距離を置き、作戦、兵器、兵員、兵站、補給、情報など軍事面から冷徹に経過を分析。戦後最悪といわれる侵略戦争のリアルを浮き彫りにします。
 新潮新書は本書で通巻1000点となりました。2003年の創刊以来、数々の作品を執筆してくださった著者の皆様、手に取ってお読みいただいた読者の方々に、あらためて感謝を申し上げます。
2023/06