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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

善悪のほとりで

 いま、古代史がにわかに注目を集めています。先日、佐賀の吉野ケ里遺跡で発見された石棺墓をきっかけに、今後の発見次第では「邪馬台国は九州か、畿内か」という古代国家を二分する議論に決着がつくかもしれない、というのです。
 そもそも古代史は謎が多いものですが、アマテラスが善き神であるのに対して、なぜ弟のスサノヲは時に救いの神になり、また荒ぶる神として描かれるのか、振れ幅の大きさ自体が大きな謎とされてきました。7月新刊『スサノヲの正体』(関裕二・著)では、天皇家との奇妙な関係、古事記と日本書紀でのキャラの違い、ヤマト建国との関わりなど数々の謎をめぐり、長年、古代史と向き合ってきた碩学が想像力を駆使してスサノヲの謎に挑みます。
不道徳ロック講座』(神舘和典・著)は、ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ジョン・レノン等々、ロックのレジェンドたちの自伝をもとに、その滅茶苦茶な行状を活写します。不倫して謝罪、薬物に手を出して自粛、飲酒で暴れて謹慎......ロック・ミュージシャンまでもが道徳的に振る舞うことを強いられるようになったこの頃ですが、でも、本当にそれでいいのか? 道徳的にはまったく正しくない彼ら自身もその音楽もじつに魅力的ではないか――真面目な人は眉をひそめてしまうエピソードが満載の痛快な1冊です。 
 世の中の風潮もデジタル環境も様変わりしていくなか、会社でも戸惑いをおぼえる中高年も多いと思いますが、『世界のDXはどこまで進んでいるか』(雨宮寛二・著)では、IT企業のイノベーションと競争戦略を専門とする経営学者が、DXの基本的な方法論から企業が「全体最適」をつくり上げるための戦略、ネットフリックス、テスラ、クボタ、アステラス製薬などなど国内外の先進企業のDXへの取り組みまで、実例をふまえて2030年以降へのビジネスの道筋を提示します。
2023/07