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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

リアルを生き抜くために

 ちょっと上振れたかと思うとたちまち下振れ、衆院解散の話も浮かんでは消えるを繰り返していますが、いずれにせよ低位安定の現政権は、世間の関心から遠いところにあるようです。そんななか、この9月に日本保守党を立ち上げたのがベストセラー作家の百田尚樹氏。なにごとも「検討」ばかりが口を突く総理とちがい、説得力と発信力は抜群です。
 最新刊『大常識』は、正義をタテに多数の意見を踏みにじるリベラル派や、被害者ではなく加害者のほうばかり向いている人権派、願ってさえいれば平和が守れると言い張る人たちなど、非常識にあふれた世界に投じる「大いなる常識」というリアルな一石です。
 物価対策にデフレ脱却、財源確保に減税など矛盾だらけの昨今ですが、『世帯年収1000万円―「勝ち組」家庭の残酷な真実―』(加藤梨里・著)では、世間的には裕福と思われがちな家庭のリアルをフィナンシャルプランナーが徹底分析。公的支援などの所得制限にかかりやすい一方で、不動産や教育費の高騰、実質賃金の減少などシビアな生活ぶりを解き明かし、さらには人気アニメに描かれる「幸福な家族」をモデルにキャッシュフローと将来設計をシミュレーション、イメージとのギャップを浮き彫りにしていきます。
貧乏ピッツァ』(ヤマザキマリ・著)は、5年前に刊行された『パスタぎらい』とのいわば姉妹版。貧乏だった画学生時代によく食べたピッツァの記憶から、ラーメンやデパ地下、牛乳や素麺といった日本らしい食文化、世界の「おふくろの味」比較まで、まさに盛りだくさん。「味覚の喜びというものは、この世を生き抜く私たちの魂にとって、自由を謳歌する頼もしい味方」と語る著者の食エッセイは、「食べることは生きること」を実感させてくれます。
2023/11