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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

それぞれの「闇」を掘る

 暗闇、心の闇、闇商売、闇から闇、闇に消える――。門の中の暗きところで神意を聞くこと、入り口を閉じてふさいでしまうことなど、この字の起源には諸説あるようですが、ふだんは見えないもの、見せたくないもの、という比喩的な意味でよく使われます。
 12月新刊『ニッポンの闇』(中野信子・著、デーブ・スペクター・著)では、脳科学者と謎のアメリカ人TVプロデューサーが、この国のタブーの数々を語り尽くします。テレビを縛るコンプライアンス、強い横並び意識と絶え間ない炎上騒ぎ、カルト宗教の蔓延、ジャニーズ問題......こうした日本的な光景が何を示すのか。そして日本人が選ぶべき未来とは。メディアの周縁と中心を自在に行き来する二人だからこその発見と提言にあふれています。
歴史は予言する』(片山杜秀・著)は、令和を代表する「知の巨人」が、歴史の闇に埋もれた秘話を次々に発掘。少子化の進行によって滅亡したローマ帝国、疫病患者との濃厚接触を避けるため「物忌(ものいみ)」した平安貴族、明治、昭和の日本を揺るがした「皇族の結婚相手」選び、首相暗殺犯の助命を嘆願した国民世論などなど、現代日本の抱える難題と似たような話がそこかしこに――週刊新潮の巻頭コラム「夏裘冬扇」からの厳選です。
令和の山口組』(山川光彦・著)は、大正から昭和・平成・令和の現在まで百年余り、国内最大の暴力団の歴史をたどりながら、人、モノ、金など様々な角度からわかりやすく描きます。警察当局はじめ国家権力との再三のバトル、1990年代以降は暴対法・暴排条例に象徴される一般社会からの排除、さらには「六代目」と「神戸」の分裂劇など、内外から厳しい圧力にさらされる闇社会もまた、時流の変化の象徴であるようです。
 もっといい家庭に生まれてきたら......、もっと美人に生まれていたら......、いっそ生まれてこない方が幸せだったかも......。人は誰しも「生まれる」ことを選択できません。にもかかわらず、「生まれた」その後の人生の責任はやはり自分自身に帰結します。『親ガチャの哲学』(戸谷洋志・著)では、様々なものがネットやSNSを通して可視化される現代社会で、若者たちが口々に叫ぶ「親ガチャ」という言葉をめぐり、その軽さと重さに潜む闇を深く掘り進めていきます。
2023/12