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【特集「何、食べよっか?」――食とその風景をめぐって】朱野帰子/遠藤彩見/柏井 壽/小泉武夫/椎名 誠/平松洋子/姜 尚美/山本ゆり

小説新潮 2019年3月号

(毎月22日発売)

998円(税込)

雑誌の仕様

発売日:2019/02/22

発売日 2019/02/22
JANコード 4910047010398
定価 998円(税込)
■まとめ テーマでくくる 本選びのヒント
本の中の「おいしい」もの

■目次
【特集「何、食べよっか?」――食とその風景をめぐって】

【小説】
朱野帰子/もし、明日死ぬとしたら何を食べたい?
――元彼と中華料理屋に入った結衣。いい雰囲気、だけど……ドラマ化で話題『わたし、定時で帰ります。』、番外編

遠藤彩見/消えもの
――撮影現場で起きた不可解な事件に、無名の俳優・左右田は

柏井 壽/祇園白川 小堀商店 レシピ買います
――普通の洋食屋、その正体は……人気シリーズ、本誌初登場

小泉武夫/食いしん坊ガキ大将
――干柿、鶏めし、油揚げ。稀代の発酵学者が描く「少年時代」

【エッセイ・ノンフィクション】
〈新連載〉
椎名 誠/漂流者は何を食べたか
――生還者と漂流記マニアだけが知っている、超サバイバル術

〈新連載〉
平松洋子/プロレスは何を食べる
――男たちの闘いを支える食、そしてその身体づくりに密着

◆姜 尚美/味覚をひらく言葉
――母が、店主が発したひと言で、気付く人生と食の物語

◆山本ゆり/syunkon「ふざけた料理本」の秘密
――あのレシピブログはなぜ人気なの? 書き手の思いとは

【短編小説傑作選】
◆今村翔吾/八本目の槍 六本槍 権平は笑っているか
――出世を目指し仕官するも、権平は自らの限界を知り……

一木けい/愛で放す 後編
――飲酒と入院を繰り返す父。千映は心身ともに疲れ果てていた

◆足立 紳/妻と笑う
――怒り狂う妻をなだめるため、俺はある秘策を思いつくが

◆香月夕花/十三階段の夢
――全盲の絵麻と働くことになった稔は、辞職を促されていて

畠中 恵/恋の闇 しゃばけ
――中屋が山姥と縁談!? 妙な噂を確かめに若だんなが向うと

【連載第二回】
奥泉 光/死神の棋譜
――将棋ファン騒然! その棋譜に魅入られた者を待ち受けるのは

【注目の「鉄学」紀行】
原 武史/「線」の思考 第四回 古代・中世・近代が交錯するJR阪和線
――天王寺と和歌山を結ぶJR阪和線。沿線は天皇に縁の深い史跡や地名を数多く擁している。そこに隠された秘密とは――

【バラエティコラム】
〈いつか住みたい街〉青柳恵介
〈わたしの愛用品〉有賀 薫
〈あのとき聞いた音楽〉加藤千恵

小説新潮作家名鑑
◆朱野帰子
――「私も、定時で帰ります」と決めた作家の日常あれこれ

◆本の森――新刊文芸書から、選りすぐりを紹介
〈歴史・時代〉田口幹人
〈SF・ファンタジー〉石井千湖
〈恋愛・青春〉高頭佐和子

【連載エッセイ・マンガ・インタビュー】
阿刀田高/谷崎潤一郎を知っていますか
◆岩井勇気/僕の人生には事件が起きない
川上和人/オニソロジスト嘘つかない
酒井順子/処女の道程
佐藤 優/村上春樹『騎士団長殺し』を読む
中野信子/孤独な脳、馬鹿になれない私
中野 翠/コラムニストになりたかった
ペリー荻野/テレビの荒野を歩いた人たち 小林信彦の巻 前編
◆道草晴子/下北日記

【好評連載小説】
赤川次郎/いもうと
安部龍太郎/迷宮の月
彩瀬まる/サーカスの日
石田衣良/清く貧しく美しく
江上 剛/特命金融捜査官 清算
奥田英朗/霧の向こう 最終回
京極夏彦/今昔百鬼拾遺 天狗 最終回
熊谷達也/我は景祐
黒川博行/熔果
今野 敏/清明 隠蔽捜査8
白石一文/ひとりでパンを買いに行く日々に 最終回
貫井徳郎/邯鄲の島遥かなり
◆藤野恵美/サバイバーズ・ギルト
◆薬丸 岳/刑事弁護人
山本文緒/自転しながら公転する

第六回「新潮ミステリー大賞」募集要項
「日本ファンタジーノベル大賞2019」募集要項
次号予告/表紙画家のつぶやき

この号の誌面

編集長から

読んで味わうおいしい「食の文芸」

 作家と食、というコンビは文芸においては万古不易。小誌掲載作では池波正太郎氏の『むかしの味』を思い出してもらえればよいだろう。しかし最近、そういう企画が少なくなったと漏らしたところ、編集部内から認識不足を指摘する声が上がり、たちまち出来上がったのが本号の特集「『何、食べよっか?』――食とその風景をめぐって」だった。
 小説は『わたし、定時で帰ります。』のドラマ化で注目を浴びる朱野帰子、『キッチン・ブルー』の遠藤彩見、京都を舞台にした幅広い著作が人気の柏井壽、そして今年小説デビューを果たした発酵学の大家・小泉武夫の4氏が、それぞれの「食の風景」を巧みに描き上げる。
 またエッセイ・ノンフィクションも、椎名誠氏が宿願のテーマに挑む「漂流者は何を食べたか」、平松洋子氏の新境地「プロレスは何を食べる」など、腰の据わった力作4本が集まった。普段ネット上で読んでいるレストランガイドや食レポとは違う、「食の文芸」をご賞味いただきたい。

小説新潮編集長 江木裕計

『わたし、定時で帰ります。』番外編

 ドラマ化で話題『わたし、定時で帰ります。』の続編『わたし、定時で帰ります。―ハイパー―』が2019年3月29日に発売予定! 続編を読む前にこちらの番外編もお楽しみください。

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 ここは、風が強く吹く東京の湾亜地区である。都心にアクセスがいいわりにオフィスの賃料はそれほど高騰しておらず、新興企業が詰まったビルが多い。

 その一角にある雑居ビルの地下へと、薄暗い階段を降りていくと、逆さまの「福」という文字がベタベタと貼ってある扉が現れる。そこが上海飯店である。

 私はこの店の招き猫である。

 壁際に置かれた漆塗りの飾り棚の上、サムスン製の液晶テレビの横に座っている。

 一般的な招き猫が上げているのは右手だが、私が上げているのは左手。つまり、私が招こうとしているのはお金ではなく人のほうで――いや、ちょっとお待ちを。

 今ちょうど、珍客を招き入れてしまったようだ。

「お前、全然死ぬ気ないだろ」

 そう言いながら、扉を押し開けて、入ってきたのは種田晃太郎たねだこうたろうである。たしかもう三十五歳になるはずだ。スーツをスポーツウェアのように着ている体育会系の男だ。

(これは、どういうことだ)

 私は視線を厨房の前にいる王丹おうたんへと向ける。髪を一つにまとめ、化粧っけのない、この店の女性オーナーも驚いている。「なぜ」と口を動かしている。

 その目は、晃太郎の後から、親しげに連れ立って現れた女性を見つめている。

 その女性とは、東山結衣ひがしやまゆい。晃太郎より三歳ほど若く、いつも通り、ゆるいオフィスカジュアルに身を包んでいる。

 彼女はこの店ができて間もない頃から通っている常連である。王丹とも親しい。何を隠そう、この店に沢山の人が来るようにと、私を王丹に贈ったのは、他でもない彼女である。

「晃太郎こそ、死ぬ気満々って感じで、嫌だなあ、そういうの」

 そう言いながら、私のすぐ前のテーブル席を選び、荷物を椅子に置いている。

 びっくりして口がきけずにいる王丹と私(私はもとからきけないが)の代わりに、

「あれ、お二人さん、あんたら、とっくに別れたんじゃなかったっけ?」

 と訊いてくれたのは、別の常連であるおじさんだ。

 その通り、彼らは二年も前に別れたのだ。原因は二人の働き方があまりにも違うことだった。結衣は何があっても定時に帰る女。一方の晃太郎は二十四時間働く男。

 つきあっていた頃、二人はよくこの中華料理屋に来ていた。最初はお互いしか目に入っていないのではないか、と思われるほど仲が良かった二人だが、結婚という現実を前にして、少しずつ、その仲は怪しくなっていった。

 常にスマートフォンを傍らから離さず、業務メールが来ればすぐ対応する晃太郎に待たされながら、結衣が黙ってジョッキを傾けているシーンを、私は何度も見た。

 結局二人は別れ、結衣は今年、同じ業界で働く別の男性と婚約した。今度はプライベートを大事にする人らしい。結衣を一人で待たせない男だそうだ。

 そんないい人がいるのに、なぜ、この男と二人っきりでご飯など食べに来るのか。

 実は、二ヶ月ほど前、閉店間際にも二人で来たことはある。部下の面倒を見ているうちに仕事が終わらなくなった結衣を、晃太郎が手伝い、一緒に残業するはめになったと言っていた。その流れで夕飯を食べに来たらしい。どちらも疲れた顔をしていて、湯麵タンメンを食べて帰っていった。

 しかし、その時と違って、今、二人の間には仕事の空気が挟まっていない。

 怪しいぞ、と思っている私の代わりに、

「元彼と、思い出の店に、そんなに楽しそうに来ちゃっていいのかなあ」

 と、おじさんが訊いている。さすが酔っぱらいだ。若者のプライバシーに踏みこむ下世話っぷりが今は頼もしい。

「婚約者に怒られない?またまた、結婚ダメになっちゃったりして!」

 それを聞くと、さっきまで笑っていた結衣の目が死んだようになった。

「いいんです、もうダメになったので」

 そう言って、倒れこむように、椅子に座りこんでいる。

「ダメになったってどういうこと」

「浮気。浮気です。今さっき、その現場に遭遇してきて」

つづきは本誌でお楽しみください。

特設サイト[→]#ホワイト退社デー 『わたし、定時で帰ります。』

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 小説新潮は戦後まもない一九四七年に創刊されました。以来、文学史に名をとどめる作家で、小説新潮に登場したことのない名前を探すほうが困難なほど、数多の文豪、巨匠、新進気鋭による名作、名シリーズが誌面を飾ってきました。

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 目指すのは、大人の小説、大人の愉しみが、ぎっしり詰まった雑誌です。経験を重ね、人生の陰翳を知る読者だからこそ楽しめる小説、今だからこそ必要とされる情報を、ぎっしり詰め込んでいきたい。

 言葉を換えれば、「もうひとつの人生を体験する小説誌」。時には主人公たちの息遣いに寄り添い、またある時には人生の新たな側面を見つけるささやかなヒントになれば――そう願っています。
 ほんの少しかもしれませんが、小説新潮で毎月の生活がきっと変わるはずです。

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