
「小説新潮」2019年3月号は8つの食の風景を描いた小説・エッセイ特集です。
小説やエッセイを読んでいると、思わず生唾をのむような「おいしい」描写に出合います。事細かく書かれていると、頭の中はもうそればっかりになるのです。本の中の「おいしい」をご紹介いたします。
サンドイッチ
ママは薄く切ったパンにバターを塗っていた。おばあちゃんはいり卵をつくっていた。バターに卵の溶けるいい匂いが部屋じゅうに広がっていた。
[本書「西の魔女が死んだ」より]
ハンバーグ
大きめのボウルに挽肉を入れ、みじん切りの玉ネギと、他にもキャベツとかニンジンとか、ときに椎茸とか、残り野菜を入れてカサを稼ぐ……(略)最後に塩胡椒、ナツメグを加えて味を調える。
[本書「普通ハンバーグ」より]
カツ丼
外観も異様においしそうだったが、食べてみると、これはすごい。すごいおいしさだった。(略)カツの肉の質といい、だしの味といい、玉子と玉ねぎの煮え具合といい、かために炊いたごはんの米といい、非の打ちどころがない。
[本書「満月――キッチン2」より]
サラダ
フォワグラサラダだが、フレッシュフォワグラを分厚く切り、フライパンで素焼きにし、表面がパリッとなったところで醤油を投入し、大皿に盛ったレタスの上にジュージュー泡立つ油ごとジャーッとかけたものである。
[本書「まじめでおかしな仲間たち ドクターの誕生会」より]
おみそ汁
前の晩に仕込んでおいた煮干しから、うっすらとダシが滲み出てほんのり魚の香りが漂っていた。(略)味噌を入れたら絶対に煮立たせないこと。必ず煮えばなをお椀によそうこと。
卵の中に水で溶いた片栗粉を入れ、更によく混ぜ合わせた。これを、菜箸に伝わらせるようにして汁の中に落とす。
[本書「こーちゃんのおみそ汁」より]
豚肉料理
豚カツ用の肩ロースの切り身に、たらことチーズをのせて焼く「好きなものだけ焼き」とか。薄切り肉に余り野菜を巻いて、醤油と酒と味醂の甘辛タレで煮詰める豚肉まきまきとか。
[本書「私の愛するもの ありが豚」より]
粗料理
石川県能登の「鰤のかげのたたき=生の鰤のかげ(鰓)を鉈でたたいて細かくし、大根のみじん切りと麹と塩を混ぜて漬け込む。五日ほどしたら、アワビの殻に入れて貝焼きにする」など、日本の郷土料理も粗を使いこなしているのを学ぶ。
[太田和彦/「粗屋」の開店はいつ? 「波」2019年1月号より →全文へ]
チョコレートケーキとコーヒー
夜ごはんのあと、あたしたちはチョコレートケーキを食べて、コーヒーをのんだ。
[本書「2001・逗子」より]
部屋の中は、チョコレートケーキのいい匂いがしている。(略)
[本書「2004・東京」より]
「いつごろ引越すの?」
ケーキを食べながら、あたしは訊いた。
「まだわからないわ」
ママは言い、濃いコーヒーを啜る。