新潮文庫メールマガジン アーカイブス
今月の1冊


「令和は「定時で帰る」でしょ」
 そんな言葉をちょうど二年前の電車の中で、移動中らしきサラリーマン男性たちが話すのを聞いた覚えがあります。TBS火曜10時から放送された連続ドラマ「わたし、定時で帰ります。」が放映されている最中のことでした。
 まさかその一年後コロナ禍によって会社に出社する、という働き方そのものが見直されることになるとは想像もしませんでしたが、「定時で帰ります。」という会社員なら誰しもがざわつかずにはいられないワードは当時、放送されるたびにSNSでもトレンド入りを果たし、「自分にとって働くとはなんだろう」という問いを投げかける作品として話題になりました。
 3月新刊新潮文庫『わたし、定時で帰ります。2―打倒!パワハラ企業編―』は前作『わたし、定時で帰ります。』と併せてドラマ原作の2巻目になります。
「定時で帰る」というワードを切り口に浮かび上がる会社員たちの葛藤や価値観の衝突――早く家に帰ってプライベートを充実させたい、でも一生懸命仕事していないと誰かから思われるのはいやだ。仕事場にしか居場所がない。超過労働でなんとか空白を埋めよう。......そんな同調圧力と日本の職場でまま見られがちの精神論の中で、心が摩耗していき、正しいことすら見えなくなっていく。そんな敵とどう戦うか。あるいは切り抜けるか。
 本作は"絶対に定時で帰る。"をモットーとする主人公東山結衣に襲いかかる問題児ばかりの新人教育と、クライアントからのパワーハラスメントが主軸となっています。
 一筋縄ではいかない状況の中を結衣はどう対処していくのか。そして、元婚約者との関係はどうなっていくのか? 笑いあり、涙あり、至高のエンターテインメントが繰り広げられます。
 解説はドラマの主題歌も歌われたSuperfly越智志帆さん。ソウルフルな内容にも注目です。

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2021年03月15日   今月の1冊


 7月1日公開予定の「峠 最後のサムライ」(監督・脚本 小泉堯史)、そして10月公開予定の「燃えよ剣」(監督・脚本 原田眞人)。司馬遼太郎作品原作の映画2作品が、公開待機中です。「峠」の主人公・河井継之助を演じるのは役所広司さん、そして「燃えよ剣」の主人公・土方歳三は岡田准一さんと、映画「関ケ原」で徳川家康、石田三成を演じた2人の名優が、立場・地位は違うけれど、己の信念を胸に激動の幕末を駆け抜けた「サムライ」を演じています。
 2作品の映画化を機に、司馬作品を読んでみようという方々も多いかもしれませんが、司馬遼太郎作品は、戦国もの、幕末もの、明治もの、そして紀行エッセイの傑作『街道をゆく』、日本人とは何かを問い続けた文明批評エッセイと、その世界は多岐にわたっています。大河ドラマの原作等で名前は知っているけれど、「どの作品から読めばいいの?」とお迷いの方も多いかもしれません。

 そんな戸惑いをお持ちの方におすすめなのが、新潮文庫の新刊『文豪ナビ 司馬遼太郎』。
 多彩な作品世界を理解するための5つのコースを用意して、それぞれのジャンルの中から代表的な作品をピックアップ。それぞれの作品の読みどころを判りやすく紹介する「ジャンル別! 司馬遼太郎作品ナビ」。
「人間としての値うちは、志を持っているかいないかにかかわっている」「仕事というものは、全部をやってはいけない。八分まででいい。八分までが困難の道である。あとの二分はだれでもできる。その二分はひとにやらせて完成の功を譲ってしまう。それでなければ大事業というものはできない」といった作品にちりばめられた名言を集めた「人生に効く! 司馬遼太郎の名言」。
 作家の人生にグッと迫った「評伝 司馬遼太郎」。
 新潮社秘蔵の貴重なビジュアル満載の巻頭グラビア。
 様々な角度から、司馬遼太郎とその作品を解き明かし、その新たな魅力を徹底解剖した作家ガイド本が、『文豪ナビ 司馬遼太郎』です。

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2021年02月15日   今月の1冊


 2008年のシリーズ開始から13年、神永学さんの「天命探偵」シリーズがついに完結しました。7作目にして最終巻の『アトラス』では、シリーズ最大の危機、最強の敵、そして最高のクライマックスをお約束します。

 死の予知する志乃の夢に現れた次の犠牲者は、警察庁警備局公安課のトップ・唐沢。これまで共闘してきた上司が殺される未来図に衝撃を受ける真田たちは、忌まわしい運命を変えるべく危険な作戦に身を投じます。そこへ現れたのは、前作『アレス』にも登場した因縁の敵・アレス。無敵の闘神を前に、最強バディの真田と黒野も苦戦を強いられます。運命に抗うことはできるのか。そして、眠り続ける志乃は目を覚ますのか――。

 真田が繰り広げる派手なアクションシーンと、黒野が誇る冷静沈着な頭脳戦が冴え渡り、読み進めるごとに興奮が増してゆきます。そして読み終えると、興奮とともに、あたたかな満足感と幸福感でいっぱいになることと思います。

「心霊探偵八雲」「怪盗探偵山猫」と並ぶ神永学の「三大探偵シリーズ」、掉尾を飾る「天命探偵」のラストシーンをどうぞ読み逃しなく!

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2021年02月15日   今月の1冊


 明けましておめでとうございます。今年はいつもの人混みの「初詣」や、「箱根駅伝」を眺めながら皆で囲む「重箱おせち」といった「日本の伝統」のお正月の過ごし方が恋しくなることもあったのではないでしょうか。......でも、ちょっと待ってください。それって本当に昔からある伝統でしょうか? 一見それらしい「古来から連綿と続く」「昔からのしきたり」「和の心」には、じつはごく最近つくられた新しい伝統も多いのです。「土下座」が謝罪のポーズになったのも、「喪服」が黒になったのも、「白菜」が食卓に並ぶようになったのも、じつはそんなに昔のことではなかったりするのです。古式ゆかしい伝統感抜群の京野菜「万願寺とうがらし」も、じつは「カリフォルニア・ワンダー」から生み出された新野菜だったってご存じでしたか? 知れば知るほど面白い、誰かに話したくなる「伝統」の「?」や「!」を楽しむ本です。毎日1項目ずつ読むような「トイレ読書」にもオススメの1冊です。

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2021年01月15日   今月の1冊


 新春4日にNHKニュースウォッチ9で放送された塩野七生さんのインタビューをご覧になった方も多いと思いますが、2年ぶりとなる書き下ろし新作を刊行いたしました。

 インタビューでも触れられていましたが、検疫を意味する英語「quarantine」はヴェネツィア方言のイタリア語が語源です。ジブラルタル海峡を抜けて現在のオランダまで、そしてボスポラス海峡を抜けて黒海まで交易先を求めて旅したヴェネツィア人ですが、検疫、防疫は死活問題であった彼らの生き方に、現在のコロナ禍を生きる私たちが学ぶところは多いかもしれません。

 オスマン帝国や神聖ローマ帝国、スペイン王国、フランス王国といった巨大な領土をもつ列強に囲まれながら、小さな小さな島国ながらも独特の存在感を誇ったその姿も、われわれ日本人が自らを重ね合わせたくなるところがあります。

 塩野七生さんがふたたびルネサンス期のヴェネツィアを描いた意味はそこにあるのかもしれません。本作は「歴史小説」という形をとっていますが、塩野さんのすべての作品と同じく、何百年も昔のことを描きつつ、現代を生きる日本人への提言となっている作品です。ぜひお手に取っていただきたいと思います。

『小説 イタリア・ルネサンス』には、すべての巻に絢爛豪華なルネサンス世界を体現するカラー口絵を収録。文庫版とは思えない美しい造本も話題になっています。口絵を動画に収めましたので、以下からご覧ください。
[→動画を視聴する]

 本の総合情報サイト「BookBang」には刊行記念インタビューが掲載されています。あわせてお楽しみください。
[→インタビューを見る(1)]
[→インタビューを見る(2)]
[→インタビューを見る(3)]

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2021年01月15日   今月の1冊