作家、群ようこさんを作ったのは、こんな本たちだった! 忘れられない本とその思い出が綴られた、群さんの原点ともいうべき名ブックエッセイ『鞄に本だけつめこんで』が新装版で登場しました。
幸田文のエッセイから想起する、父との日々。梶井基次郎を読むたびに去来する、愛猫への感謝と懺悔。不良になりたかった少女時代に出会った、坂口安吾。志賀直哉に興奮してしまった授業中。なぜか数学の先生が教えてくれた印象的な一冊――ほかにも谷崎、川端、林芙美子、三島などの名作全24冊が、群さんの人生の風景とともに紹介されます。
思わず吹き出してしまったり、しんみり考えさせられたり。群さんが本とすごした悲喜こもごもの日々に思わず共感してしまうこと請け合いです。そしてきっと、あなたにとっての忘れられない一冊も、思い出とともに呼び起こされることでしょう。
新装版で加わった、あの数学の先生との後日譚も記されている「二〇二〇年のあとがき」は、旧版のファンなら特に必読です! イラストレーターのshimizuさんによるかわいい扉絵もあわせてお楽しみください。
河盛好蔵(1902-2000)といえば、小林秀雄(1902-1983)、河上徹太郎(1902-1980)らと並ぶ大教養人で、特に河盛は、フランスに特徴的なモラリスト(非連続の短文で人生の哲理を表現した教養人)の紹介や評論で名をはせました。
その河盛の空前のベストセラーとなった本書『人とつき合う法』は昭和33(1958)年、に刊行されました。「週刊朝日」連載開始時、編集部は読者について高校生を念頭においてほしいとの注文だったようですが、本書「あとがき」によれば、「そういうことには全くこだわらず」一般の社会人に向けて書いたといいます。もっといえば、「貧しい人生経験のすべてを投じて、いわば体当りになって」書いた、河盛自身の「内的自叙伝」とあります。
本書冒頭「イヤなやつ」の章には、「他人の幸福よりも不幸を喜ぶ根性の悪さ」があり、「自分はできるだけ怠けて、人を働かせ、その功を自分だけでひとり占めしたいというズルさと欲の深さ」があり、「権力者にはなるべく逆らわないで、時としては進んでその権力に媚びようとするいやしさ」があり、「絶えず世のなかの動きを眺めていて、できるだけバスに乗りおくれまいとする、こすっからいところ」があり、「他人にはきびしくて、自分には寛大な、エゴイストの部分が非常に多」く、「ケチで、勘定高くて、他人の不幸にはそ知らぬ顔をし、自分の不幸は十倍ぐらい誇張して、いつも不平不満でいる」という「イヤなやつ」の条件をことごとく具えているのが自分自身であり、「こんなことを、あけすけに書いた方が、かえって得になるとひそかに計算している」という自己省察の披瀝があります。
この自己規定から出発して、「人とつき合う」ことの難しさ、楽しさ、失敗、感動を紹介したのが本書です。河盛自身の経験に加えて博覧強記の教養から、漱石、荷風、鏡花、太宰らをはじめ、キケロ、ゲーテ、モンテーニュ、ヴォルテール、ベルグソン、ヴァレリー、モーリヤック、チェーホフ、ドストエフスキー、トルストイらの行跡名言をとりまぜて、易しく、わかりやすく、人づき合いの要諦を書き留めています。
新装復刊に際し、編集部で注釈を施しました。
解説は、哲学者で『嫌われる勇気』の著者であるアドラー心理学の大家、岸見一郎。本書の本質的な意義、位置づけを明解に解説しています。
入学、入社、転職、結婚、転居......、人生の新しい局面で必ず助けとなる言葉に出会えます。是非、ご一読を。
1968年9月8日、日本全国の少年が固唾を飲んでテレビを観ていました。「ウルトラセブン」最終回が放送されたのです。毎週日曜日夕方7時から30分の枠で、平均視聴率は26.5パーセントというお化け番組、日本列島の子供がみんなテレビの前に釘付けになっていたと言っても過言ではないでしょう。
その中に、7歳の青山通少年もいました。東京の世田谷区に住む小学2年生でした。
番組も終わりに近づき、身も心もボロボロになったモロボシダンは、ついに自分がウルトラセブンであることをアンヌ隊員に明かします。クライマックス、ラストの8分です。
「僕は......僕はね、人間じゃないんだよ。M78星雲から来たウルトラセブンなんだ!」
その告白の瞬間、映像は反転、二人はシルエットとなり、背景は銀の光が煌めきます。
と、そのとき、オーケストラとピアノ・ソロの衝撃的な音楽がかかります。
ジャン! ダダーンダダンダダンダダンダダンダダン~
なんだ、このすごい曲は!! その演奏に少年はすっかり打ちのめされてしまいます。この時から、少年は、クラシックに詳しい大人に聞いたり、友達のお兄さんのレコードのコレクションを聴かせてもらったり、いろいろな方法で、この曲はなにかを突き止めようとします。今なら、「即検索」......なのかもしれませんが、当時はインターネットはありません。思想史家で音楽評論家の片山杜秀氏が本書の解説で、そのありようをこう評しています。
《本書は、20世紀のひとりの子供がクラシック音楽の名曲とここまで見事に出会い、そのあとの長い人生にこれまた見事につなげてゆく、貴重なドキュメントである》
おりしも、番組が放映されていたのは「昭和元禄」の頃。終戦から20年経た日本は、戦争の記憶から抜け出し、高度成長のピークにありました。ミニスカートやサイケ、ゴーゴーといった風俗と70年安保とベトナム反戦などの熱い闘争が同居する時代でした。
《1960年前後に生まれた世代のテレビや音楽やレコードへの接し方についての大切な記録であることはもちろん、クラシック音楽を好きになるとはどういうことなのかを考えるためのひとつの入門書でもあり、青山少年の成長物語でもあるだろう》
ひとりの男の子がオトナになっていく姿と、そのころ、世界第2の経済大国に躍り出た昭和日本の息吹きがオーバーラップして、今60代から50代までの元「男の子」だけでなく、全世代の男女に、こころよい懐かしさを感じさせる「ビルティングス・ロマン」ノンフィクションであるといってもいいでしょう。
真山仁さんの文庫最新刊である政治エンタメ小説『オペレーションZ』が連続ドラマとして放送されます!
大手生保会社が資金繰りのため国債を投げ売りする事態が発生し、国債価格が暴落。あわやデフォルト=国家破綻一歩寸前となるところから物語は始まります。もう無軌道に国債を発行して未来の国民から借金する政治は終わりにしなければならないと決意した「江島隆盛総理」は、「周防篤志」「中小路流美」ら若手財務官僚を集め、極秘作戦=「オペレーションZ」を始動。しかし、歳出を半減させる方針に他省庁や世論が激しく反発、政権与党やメディアからの攻撃が渦巻くなか、江島総理は乾坤一擲の賭けに打って出る......! 息もつかせぬ緊迫のメガ政治ドラマです。
主演はNHK大河ドラマ「真田丸」や「なつぞら」での好演も記憶に新しい草刈正雄さん。映画最新作「記憶にございません!」では官房長官役でしたが、今作では内閣総理大臣を演じます。草刈さん曰く、「こんなに漢字や堅苦しい単語の多い台本は、50年の役者生活で初めて。最初は『なんだ、このセリフは』とキレそうになりましたが、やっているうちにそれがだんだん快感になった(笑)。特に演説は、気持ちいいものですね」とのこと。周防篤志役は溝端淳平さん、中小路流美役は高橋メアリージュンさんが演じます。
「連続ドラマW オペレーションZ~日本破滅、待ったなし~」は3月15日から放送です。
お楽しみに!
「読みながら、震えが止まらなかった。規格外の傑作だった」
「悪魔的な"こく"に脳髄がしびれた」
「殺人事件を扱ったノンフィクション・ノベルの名著として歴史に名を残すことは間違いない」
各紙誌で絶賛を浴びた柚木麻子さんの『BUTTER』がついに文庫化されました。発売3日目に2刷がかかり、7日目には3刷と、驚異的な勢いで売れています。
男たちの財産を奪い、殺害した容疑で逮捕された梶井真奈子。「カジマナ」と呼ばれるようになった梶井が世間を騒がせたのは、その犯行もさることながら、彼女が若くも美しくもない女だったから――。週刊誌記者の町田里佳は梶井に取材のアプローチを続け、ついに面会にこぎつけます。事件のことを聞きたくて逸る里佳に、梶井はこう切り出します。
「まず、あなたの部屋の冷蔵庫に何が入っているか、教えてくださらない?」
この言葉から、梶井と里佳の、奇妙な関係が始まります。食べること、作ることの快楽を説く梶井に感化され、里佳の生活や価値観も変貌してゆき、その変化は親友の伶子や恋人の誠らにも影響を与え......。
実在の事件をモチーフにした本作ですが、それはあくまで端緒であり、物語の核にあるのは私たちが抱える「生きづらさ」です。家族関係における罪の意識、性別にかかわらず自分で自分をケアすることの大切さ、血の繋がりにとらわれない新しい共同体の可能性――。殺人や結婚詐欺の当事者ではない多くの方々にも、この物語は決して無関係なものではないと確信しています。
そして、もう一つの読みどころは、梶井が語る美食の数々。「バター醤油ご飯」に始まり、たらこバターパスタ、ウエストのバタークリームケーキ、カトルカール......。頭の中がバターへの欲望でいっぱいになること間違いなしです。
濃厚で芳醇な、柚木麻子の新境地にして集大成、ぜひご一読ください。