白洲次郎・正子の夕餉
3,960円(税込)
発売日:2008/12/19
- 書籍
うるさい夫妻も黙った、旬の手料理120品と器づかいのごちそう。
里いもの煮ころがしから目刺し、洋風おでん、すっぽん鍋、焼き鳥まで、白洲さんちならではの作り方、盛りつけ方、食べ方があるのでした。愛娘が明かす、両親の“人には言えない”好き嫌いの秘密やなぜかこだわった器の話など、意外なエピソードとともに、夕ごはんを一緒にどうぞ。好評『白洲次郎・正子の食卓』の姉妹版誕生!
~あとがきにかえて
書誌情報
読み仮名 | シラスジロウマサコノユウゲ |
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発行形態 | 書籍 |
判型 | B5判変型 |
頁数 | 144ページ |
ISBN | 978-4-10-303754-5 |
C-CODE | 0095 |
ジャンル | ノンフィクション、クッキング・レシピ |
定価 | 3,960円 |
書評
日本一かっこいい夫妻との、食卓をはさんだ対決
白洲正子(1910~1998)が亡くなって丸十年。夫君の白洲次郎(1902~1985)への注目度も年々高まり、“白洲人気”はとどまるところを知らない。
かたや英国仕込みのジェントルマン。裏方に徹しつつ自らのプリンシプル(原則)を貫いた男。かたや伯爵家令嬢。能や古典文学、骨董に傾倒、ゆるぎない美意識を持った女性。しかも美男美女カップル。その人、風貌、仕事、そして暮らし方に私たちは惹かれ、憧れの目を向けずにいられない。
しかし時に、イメージだけが一人歩きしてしまいかねない。娘の牧山桂子氏は「彼らの良い面だけが浮き彫りにされているのは何だか恥かしい気がします」(『白洲次郎と白洲正子―乱世に生きた二人―』共著)と言う。『次郎と正子―娘が語る素顔の白洲家―』では、「良く言えば、独立心を養うためという名目のもとに子供と一歩距離を置く、悪く言えば、自分の世界だけに生きている」母正子、「ただただ無器用に私たちを愛してくれた」父次郎を、ときに冷徹なまでに分析。外からはうかがい知れない等身大の白洲夫妻を浮かび上がらせた。
このたび刊行された『白洲次郎・正子の夕餉』(『白洲次郎・正子の食卓』姉妹版)もまた、料理をとおして次郎と正子のイメージをいい意味で崩してくれる、桂子氏独特の父母へのオマージュといえる。百二十品もの手料理の写真を前に、私たちは、白洲さん家ではいったい何を食べていたのかという興味が満たされるとともに、料理、盛り付け、器づかいなどから垣間見える白洲家のライフスタイルを、その場にいるかのごとく実感できる。お楽しみはそれだけではない。“作る人”桂子氏が明かす、“食べる人”次郎と正子との、ちょっとした“対決”や意外なエピソードに、思わず頬がゆるむのだ。
たとえば次郎は、リゾットやお粥はお腹をこわしたときに食べるものと信じている。クラムチャウダーには必ずクラッカーをつけないと気がすまない。正子は、トマトときゅうりを一緒に食べると体に良くない、きゅうりとにんじんもダメと主張。いかの煮物が嫌い。なぜかと訊くと「私しゃうまいものが好きなのよ」と言い放った。など……
作ってもらっているのに、なんとわがままな! と傍目に思うが、桂子氏も負けてはいない。茹で卵と豚肉の煮物を作って「男は卵だけ食べさせておけば、文句を言わない」と密かにほくそ笑んだり、アスパラガスの根元を残す母にしびれを切らし、「それならこうしてやるとばかり」穂先を五センチほどに切って、ついに全部食べさせたり。それでも、毎秋かりんのジャムを作ってあげると、「母は、赤いジャムを透明のガラスの壺に入れて、朝日にかざし、いつまでも見ていました」。ふと親娘の間に流れる優しい感情に、心が温まる。
唯一残念なのは、もう次郎と正子から“反論”を聞けないこと。でもそこはそれ、一緒に笑い飛ばしているはずだ。
*
以下、白洲次郎と白洲正子をもっとよく知るために――。
白洲次郎とは何者なのか、繙く時の底本ともいうべきものが、青柳恵介著『風の男 白洲次郎』(新潮文庫)。彼の人生をヴィジュアルで追う『白洲次郎の流儀』(とんぼの本)も必読。「大企業は困ると政府に泣きつく乞食根性を捨てろ」等々、歯に衣着せぬ次郎の直言集『プリンシプルのない日本』(新潮文庫)は、まさに現代にこそ読みたい本だ。
白洲正子の著作は、ほぼすべて『白洲正子全集』(全14巻・別巻1)で読める。いきなり全集はちょっと……という方は、新潮文庫から始められてはいかが。『日本のたくみ』『西行』『夕顔』『いまなぜ青山二郎なのか』『白洲正子自伝』など、古典文学や工芸、古美術、交友関係などについての代表作10冊が揃っている。また、『明恵上人』『私の百人一首』は美しい写真を配した愛蔵版を刊行。書棚に加えてほしい。
正子の多彩な世界を掘り下げた、「とんぼの本」のラインナップもお忘れなく。平明な言葉と一流の舞台写真で分かりやすく説いた『お能の見方』、鶴川・武相荘での暮らしの全貌を伝える『白洲正子“ほんもの”の生活』、終生愛した京都を案内する『白洲正子と歩く京都』などがおすすめだ。
(文・編集部)
波 2009年1月号より
単行本刊行時掲載
著者プロフィール
牧山桂子
マキヤマ・カツラコ
1940年東京生まれ。白洲次郎・正子の長女。2001年10月に東京・鶴川の旧白洲邸 武相荘を記念館として開館。著書に『次郎と正子 娘が語る素顔の白洲家』『白洲次郎・正子の食卓』『白洲家の晩ごはん』など。
野中昭夫
ノナカ・アキオ
1934年、新潟県生れ。1957年、早稲田大学商学部卒業後、新潮社写真部に入社。「芸術新潮」のスタッフ・カメラマンとして長年、活躍。連載「ローカルガイド」及び「現代人の伊勢神宮」で日本雑誌写真記者会賞受賞。現在、フリー。撮影を担当した単行本には、白洲正子ほか『白洲正子のきもの』(2002)、牧山桂子『白洲次郎・正子の食卓』(2007)、『白洲次郎・正子の夕餉』(2008 全て新潮社)など、とんぼの本シリーズにも『道祖神散歩』(1996)、『蕪村 放浪する「文人」』(2009)などがある。