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マツコ・デラックスと池田清彦が世間の「ふつう」にもの申す!


 みなさん、こんにちは。今日、ご紹介する新潮文庫は、マツコ・デラックスさんと池田清彦さんの対談本『マツ☆キヨ―「ヘンな人」で生きる技術―』です。「ああ、あのふたりかあ」と思われた方は、明石家さんまさん司会の某人気テレビ番組での、軽妙なやりとりをご覧になった方かもしれませんね。

 マツコ・デラックスさんといえば、いうまでもなくメディアで目にしない日はないという大人気タレント。そして、池田清彦先生は、専門の分野だけでなく科学的視点から、多くの提言を社会に発信する生物学者。大の虫マニアでもいらっしゃいます。

 マツコさんは、池田先生の地位ある大学教授とは思えない、場の空気に流されない率直さに常々関心をもち、一方の池田先生は、マツコさんが過激な発言のうらでじつは常に発言相手への配慮を欠かさず、その「シャイでカシコい」ところに魅力を感じたと、それぞれ「まえがきにかえて」と「あとがき」で述べています。

 ふたりはそれぞれ自分たちをマイナーな存在であると自認しています。マツコさんはジェンダーの、そして池田先生はアカデミズムの(池田先生は官庁で答申をしても「まず通らない、自然保護の運動に参加しても必ず負ける」のだとか)。それゆえふたりの意見は、つねに少数派にならざるを得ず、本人もそれを自覚しています。では、この世の中、少数派にはどんな生きる道があるのか。ふたりは正直に、真剣に、意見を交わし合いました。隙をついて笑いを取りにくるひな壇タレントも、盛り上がりを演出する効果音もない場所で。

 対話がおこなわれたのは二〇一一年春。東日本大震災直後、日本中が混乱のただ中にあったときでした。そのせいで、話題はまず震災があらわにした差別について語られます。マツコさんは言います。マイノリティの利益が後まわしにされることはたしかに問題だ。でも、気をつけないといけないのは、差別されているマイノリティを自認する当事者が、さらにマイノリティになっている人たちを差別する悪循環に乗らないことだ、と。耳を傾けるべき言葉だと思います。

 話題はさらにネット社会や政治、文化と縦横に展開されます。でも、何にせよクセのあるおふたりのこと、もちろんまじめ一辺倒の話にはなりません。むしろ笑いあり、下世話な話もありで、解説を執筆して下さった脳機能科学者の澤口俊之さんは、食事を取りながら読んで何度も食べ物を噴き出したそうです(お気をつけ下さい!)。たしかに、自分がマイノリティかどうか、なかなか判断はつきません。誰もが心のなかにいくぶんかマイノリティの部分を持っている、ともいえるかもしれません。世の中のきびしさもかけがえのなさも共に知り尽くすふたりの言葉から、いまを生きる大切なヒントを、きっと見つけていただけることと思います。

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2014年05月12日   今月の1冊
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