青い巨塔――人気作家の秘められた(?)青春時代が甦る。
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久坂部さんは大阪府堺市の出身。一年間の浪人生活を経て、大阪大学医学部に通いはじめました。
阪大医学部は漫画界の巨星・手塚治虫さんの母校としても知られています。山崎豊子さんの傑作長編『白い巨塔』(作中では浪速大学)では、優れたメス扱いで名を馳せる外科医、戝前五郎の野望の舞台として描かれました。
当時、同学部は大阪市の中之島地区にあり、浪人時代の予備校もその界隈にあったところから、久坂部羊さんの青春はまさに中之島と共にあったといえます。本書『ブラック・ジャックは遠かった―阪大医学生ふらふら青春記―』は、彼が中之島時代をふりかえって描いたエッセイ集です。
ドーナツ屋でバイトをしたり、クラブ活動のサッカーに熱中したり、ダンスパーティで女性にどぎまぎしたり、都会生活を謳歌しながらも、医学生としては、否応なしに人間の生と死に向き合わざるを得ません。
臨床医学の実習前に担当指導医から
「君たちは学生だが、診察させてもらうかぎりは、医師としてふるまわなければならない。従って、お互いを『先生』と呼ぶように」
と告げられ、何とも奇妙な感じを抱いたそうです。
本書には、その後の経験と当時味わった想いが、誠実に、正直に、描かれています。
医学生・研修医時代の苦悩や疑問が、作家としての原点となったことは間違いありません――。
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と、ここまで、ごくマジメに紹介してしまいましたが、そこは長い歴史に培われたユーモアで知られる大阪人であり、著者のサービス精神も作品から感じられるとおり。笑いどころが満載なのです。
久坂部ファンはもとより、「医師とはどのような人々なのか」を知りたいみなさんにも、このエッセイを自信を持ってオススメします。

2016年02月15日 今月の1冊