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「忠臣蔵」を知っていますか?


 何をバカな質問を、と思われた方も多いでしょうが、ある調査によると今や20代女性の半数以上が「忠臣蔵」を知らないと答えたそうです。10代となると男性でも認知度が3割を切るそうで(10代女子は2割以下!)、「え!? そうなの!?」と思われた方、年齢がバレますね。
 今の若者は教養がない! などという話ではないのです。「忠臣蔵」はかつては毎年のように新作映画や舞台、ドラマが公開されていた"日本人なら知らぬ者はない"年末エンタテインメントの大定番でしたが、なにせここ何年も新作がありません。若い人が知らないのも無理はないのです。
 登場人物が多いため、きらびやかなスター勢揃いの豪華な作品が作りやすいものの、ストーリーは知り尽くされています。新味を出すのが難しいですから、新作が出ないのも無理はない......と思いきや。
 この年末には大作映画が登場します。その切り口とは、

 ――「忠臣蔵」で仇討ちした人たちはお金、どうしてたの?

 前置きが長くなりましたが、それが『決算!忠臣蔵』です。主演は堤真一にナインティナインの岡村隆史。豪華俳優陣は 映画HP をご覧頂くとして、切り口も斬新ですが、全編関西弁の忠臣蔵は異色です。脚本を書いた中村義洋監督自ら筆を執り、今月、新潮文庫より小説版が刊行されました。
 御存知の方には不要の説明ですが、史実で言う「赤穂事件」は1701年(元禄14年)、江戸城・松の廊下で赤穂藩・浅野内匠頭(たくみのかみ)が高家筆頭・吉良上野介(きら・こうずけのすけ)に斬りつけるという刃傷沙汰が発端。ここから始まる事件を美談に仕立てたのが歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」です。
 この事件、吉良にはなんのお咎めもありませんでしたが、幕府が下した処分は浅野内匠頭は切腹、赤穂藩は御取り潰しというもの。「喧嘩両成敗」じゃなかったの? お家再興も却下? それはあんまりでは? と立ち上がった浅野家の家臣だった大石内蔵助(くらのすけ)以下、浪人47人が年も押し詰まった12月14日、雪が降りしきる中、吉良上野介を討って主君の仇を討ち、彼ら自身は粛々と切腹して果てました――この筋立てが日本人のハートを鷲づかみにしたのでした。
 しかし――お金はどうしてたんだ?
 という点に着目したのが東大史料編纂所の山本博文教授。『「忠臣蔵」の決算書』(新潮新書)という本を著したのですが、これを原作としたのが『決算! 忠臣蔵』というわけです。つまり、史実をかっちりと踏まえ、その上で、エンタテインメントに仕上げたのが本作というわけです。
 考えてみるまでもなく、討ち入るには刀や槍や鎖帷子が必要です。その費用は? 情報収集のためには目標の近辺に家を借りなければなりません。家賃がかかります。赤穂から江戸に行くには旅費だって必要です。そもそも、主家の御取り潰しから討ち入りまでの1年9ヶ月、生活費はどうしていたんでしょう。
 赤穂藩の家老だった大石内蔵助(堤真一が演じます)がすべてを束ねなければなりませんでした。お金の管理をしていたのは勘定方の矢頭長助です(岡村隆史が演じます)。彼らが実際にやったことと、その心労とは。予算内で仇討ちは果たせるのか?
 映画は11月22日公開予定です。
 映画の前に読んでも後に読んでも大丈夫、愉快でありながら、日本人としての魂が揺さぶられる一冊になっています。

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2019年10月15日   今月の1冊
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