Wikipedia3大文学とは、読み始めると思わず引き込まれてしまう秀逸なWikipedia記事のことで、八甲田雪中行軍遭難事件(明治35年に起きた世界最大規模の山岳遭難事件)、三毛別羆事件(大正4年に発生した日本史上最悪の熊害事件)、そして地方病(日本住血吸虫症)が知られています。
「地方病(日本住血吸虫症)」記事の主要参考文献とされ、その内容に大きな影響を与えたのがノンフィクション『死の貝』です。しかし絶版により長らく入手困難で、古本市場では1万円以上の高値がつき、復刊を求める声も数多く上がっていました。そしてこのたび、新章や写真などを増補し、『死の貝―日本住血吸虫症との闘い―』として新たに発刊されました。
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日本各地には、古来より腹が妊婦のように膨らみ、やがて動けなくなって死に至る「謎の病」が存在していました。原因もわからなければ治療法もない......その地に嫁ぐときは、「棺桶を背負っていけ」と言われるほどでした。
明治時代以降、この病に立ち向かうため医師や住民ら多くの人たちが奮闘し、原因が未知の寄生虫であることが判明します。そして、じつに100年以上にわたり、撲滅へ向けた取り組みが続けられていったのです。
本書は謎の病との闘いを追った圧巻のノンフィクションで、さながら「プロジェクトX」のような内容。文庫化にあたって、大阪大学名誉教授で生命科学者の仲野徹氏からは「日本住血吸虫の発見と撲滅は、間違いなく近代国家としての日本が取り組み、大成功を収めた誇るべき業績のひとつである。ひとりでも多くの人に、この本を読んで感動を共にしてもらいたい」という推薦コメントも届きました。
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本書は発売直後から大きな注目を集め、発売即重版、わずか2週間で3刷となりました。読売新聞(5月7日夕刊)をはじめ各種メディアでも取り上げられており、まさに話題の一冊となっています。
ちなみに、冒頭で紹介したWikipedia3大文学の残り二つは「八甲田雪中行軍遭難事件」「三毛別羆事件」ですが、じつはこれらの記事の参考にされたり、深いかかわりがあるのが新潮文庫の『八甲田山死の彷徨』(新田次郎)、『羆嵐』(吉村昭)です。今回新刊として発売された『死の貝―日本住血吸虫症との闘い―』はもちろん、こちらの二冊もぜひ合わせてお読みください。いずれの作品からも、自然の驚異や人間のはかなさ、それでも立ち向かっていこうとする人間の強さを感じることができるはずです。