ホーム > 新潮新書 > 新書・今月の編集長便り > 事実は小説より奇なり

新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

事実は小説より奇なり

 新潮文庫で8月に刊行された『監獄ラッパー』(B.I.G.JOE著)は、実に面白い本です。北海道で活動していた日本人ラッパーが、ちょっとしたウカツな行動から、オーストラリアで麻薬密輸容疑をかけられて、逮捕、収監されます。その刑務所でも彼はラップを作り続けます。そして、その音源が日本で発売されることに……というストーリーを聞くと小説のように思われるでしょうが、何と実話。「こんな人生があるのか」と驚くこと必至、笑いと感動のつまったドキュメントです。

 9月の新潮新書新刊、『死ぬな―生きていれば何とかなる―』(並木秀之・著)を読んだ方もまた必ずや、「こんな人生があるのか」と驚嘆されるでしょう。著者の生涯を構成する要素をざっと箇条書きで抜き出してみると、

(1)重い障害を抱えて生まれる
(2)母子家庭での生活苦に悩む
(3)その解決策として小学生の頃から株式投資を始めて成功
(4)就職先では「土下座」を武器に地位を固める
(5)5種類のがんを発症
(6)シティバンクにスカウトされる
(7)現在は自ら立ち上げたファンドのマネジャー

 ……これでもまだ彼の人生のごく一部です。波乱万丈としか言いようがありません。
 その人生を振り返りながら、著者は「生きていれば何とかなる」と語りかけます。他に類を見ないタイプの人生論です。

 他の新刊3点もご紹介します。
なぜ時代劇は滅びるのか』(春日太一・著)は、映画、時代劇の研究家として今最も人気のある著者が綴った時代劇への鎮魂歌。かつての国民的娯楽が衰退した道筋を辿ると、他のさまざまなジャンルにも共通する教訓が見えてきます。対象を実名で厳しく批判していくところも読みどころの一つです。

すごいインド―なぜグローバル人材が輩出するのか―』(サンジーヴ・スィンハ・著)は、日本で活躍する天才インド人コンサルタントが、インド躍進の秘密を解き明かした1冊。首相同士の相性が良いことも手伝い、今後ますますインドとの関係は密接になりそうですから、その意味でも彼らのことを知っておく良い機会ではないかと思います。

心の病が職場を潰す』(岩波明・著)は、タイトルを見ただけで「その通りなんだよ」「どうにかして欲しい」と思う方もいるのではないでしょうか。精神科医の著者が、全国津々浦々の職場にいるであろう、悩める「患者以外の人」が知っておくべき基礎知識をわかりやすく解説してくれています。

 今月も新潮新書をよろしくお願いします。

2014/09