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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

シンプルなHPの話

 正月休みに「007 スペクター」を見に行き、その後で同作のHPを見て、ちょっと驚きました。何だかとてもシンプル、というか、質素な作りになっているのです。
 映画の宣伝HPというと、大抵、開いてからしばらく、何らかのムービー的なものを見せられて、ようやく普通のメニュー画面になる、というイメージがありました。そうでなくても、何か仕掛けのようなものがあるのが普通でした。特に大作映画はそんな風だったと思います。
 ところが、このHPは一般の人のブログなどとあまり変わらない感じです。
 気になったので、他の正月映画のHPも覗いてみると、それらもちょっと前では考えられないくらいシンプルな作りになっていました。
 これはおそらく、「そんなところに凝ってくれなくていいよ」という見る側の声が反映されたのでしょう。作る側にとってもコストがかからないから、簡単なもののほうがいい、というのも変化の理由かもしれません。
 こちらとしても、何か知りたいことがあるから見ているだけで、特別なことを期待しているわけではありません。無駄なムービーや仕掛けがなくなったのは有難いことです。
 遊びの要素がまったくないものはそれはそれで寂しいのですが、私たちもなるべく無駄なく読者の期待に応えた新書を出していきたいと思いました。

 1月の新刊4点をご紹介します。

1998年の宇多田ヒカル』(宇野維正・著)は、一言で言えば、「ものすごく面白い音楽評論」。多くの場合、音楽評論は対象となる音楽のファン向けの文章になりがちですが、この本はまったくそんなことがありません。1998年にデビューした、宇多田ヒカル、椎名林檎、aiko、浜崎あゆみについて論じたこの本は、彼女たちのファンではない人でも、十分ぐいぐい惹きこまれる内容になっています。かく言う私が、ファンではないのに、最後まで面白く読めたのですから間違いありません。これがデビュー作という著者の腕は相当なものだと思いました。
オキナワ論―在沖縄海兵隊元幹部の告白―』(ロバート・D・エルドリッヂ・著)は、沖縄問題を考える上で、新鮮な視点をいくつも提示しています。たとえば、普天間基地について、報道は「世界一危険な基地」であることを前提として、枕詞のようにその言葉を使っています。しかし、著者によると、いつから「世界一危険」という認定になったのか、その出典は不明で、根拠も極めて薄弱だ、というのです。もちろん、「だから安全だ」などと著者は主張しているわけではありません。ただ、もっと事実に基づいて冷静に議論をすることを望んでいるのです。
10年後破綻する人、幸福な人』(荻原博子・著)で著者は、「東京五輪の後に大きな不況が来る」と断言しています。この本の最後の作業を進めていたら、五輪経費が当初予想の6倍に膨れ上がるかもしれない、ということがニュースで報じられていました。やはり「五輪不況が来る」という見立ては残念ながら当たってしまうのかもしれません。そうだとして、何をしておくべきか、何をしないでおくべきか。わかりやすく具体的なアドバイスが詰まった1冊です。
百人一首の謎を解く』(草野隆・著)は、タイトル通り、「百人一首」にまつわる様々な謎を一挙に解いた内容です。なぜ歌人の代表作が撰ばれていないのか? なぜ不幸な人生を送った歌人が多いのか? なぜ神仏、高僧の歌が撰ばれないのか? 著者はこの撰歌の「クライアント」と、飾られた「場所」に着目することで、鮮やかに謎を解き明かしていきます。

 ちなみに、「スター・ウォーズ」の陰に隠れて、普段ほど盛り上がっていない感じもする「007」ですが、ファンとしては十分に楽しめる作品になっていました。ダニエル・クレイグはとてもかっこいいです。

 今年も新潮新書をよろしくお願いいたします。

2016/01