新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

締め切りの話

 編集者に、どんな著者が有難いか、とアンケートを取ったらどうなるでしょうか。「売れる本を書いてくれる人」「愛想のいい人」「ご飯をおごってくれる人」等々、いろんな回答が予想されますが、「締め切りを厳守してくれる人」というのは上位に入るのではないか、と思います。
 実のところ、締め切りを守らない人もそう珍しくはないのです。それも「ごめん、今日はムリ」と早目に言って下さればいいのですが、「必ず明日」と言いながら守らないとか、急に音信不通になるとか、そういう場合は結構困ります。
 10月新刊の『スジ論』の著者は坂上忍さん。テレビで見ない日はない人気者です。
 同書は、「週刊新潮」の同名連載をまとめたものですが、凄いのは、あれだけ多忙でありながら、坂上さんは必ず締め切りを守っているということです。いや、守るどころかかなり早目に原稿を送って下さっているとのこと。遅れたことはありません。
 これがどれだけ有難いことか、出版社に知り合いのいる方はぜひ聞いてみてください。
『スジ論』は、坂上さんの考える仕事、人間関係での「スジの通し方」が書かれた、いわば「大人のルールブック」。約束した以上、締め切りを厳守する、というのも坂上さん流のスジの通し方なのでしょう。

 他の新刊3点もご紹介します。

反・民主主義論』(佐伯啓思・著)は、オビのコピーに反発する方もいるかもしれません。
「民主主義を信じるほど、不幸になっていく」
 改憲論議やトランプ現象など最近の事象をもとに、稀代の思想家である佐伯氏が民主主義の欺瞞と醜悪を鋭く衝いていきます。読後には、コピーに深く頷くことになるでしょう。
本当に偉いのか―あまのじゃく偉人伝―』(小谷野敦・著)も、従来の価値観に異を唱えた1冊。といっても、こちらはかなり楽しい読み物です。なにせ福沢諭吉、夏目漱石、坂本龍馬、コロンブス等々、古今東西の「偉人」に対して、「王様は裸だ」とばかりにツッコミを入れまくっているのです。こんな思い切った本は、著者以外には書けないのではないでしょうか。
フランスはどう少子化を克服したか』(高崎順子・著)は、日本が直面する最大の問題である少子化を解決するためのヒントが詰まったレポートであり提言集。なるほど、こんな風に問題を解決できるのか、と感心させられます。個人的には、「フランスでは無痛分娩が主流」という指摘がとても印象的でした。「わが子はお腹を痛めて産んでこそ」って、考えてみれば随分、旧式で無茶な話だなあ、と気づかされたのです。

 以上4点、正式発売日は15日。13日くらいから一部書店には並び始めます。もちろんスケジュールは厳守していますので、ぜひお手に取ってみてください。
2016/10