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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

式辞の季節に

 毎年この時期は、卒業に進学、入社や異動など、学校でも職場でも様々な変化が訪れます。自身、30数年前に大学進学のため夜行列車で上京した頃を思いだすと、自身の生活もずいぶん変わりました。とはいえ時の移り変わりは常なるもの、過ぎた日を思ったり、先のことを考えたり、立ち止まったり、そういう時期でもありそうです。
 ハングリーであれ、愚か者であれ――スティーブ・ジョブズが2005年にスタンフォード大学の卒業式で行った演説はあまりに有名ですが、日本ではどうでしょうか。そこで注目されるのはやはり東京大学。『東京大学の式辞―歴代総長の贈る言葉―』(石井洋二郎・著)では、初代から現代まで、戦争の時代から戦後の高度成長期、さらにはバブル崩壊後まで、激動する時代の渦中で若者へ向けて読まれた歴代総長の言葉をひもときながら、近現代日本の精神史をたどります。
マイ遍路―札所住職が歩いた四国八十八ヶ所―』(白川密成・著)では、札所の一つ、愛媛県今治市にある栄福寺の住職が「きっかけ」を求めて一念発起。2019~2020年にかけて計68日間・1200キロを歩いた巡礼体験記です。海・山・川の大自然、古くから「お遍路さん」を支えてきた宿や人々、国内外からの巡礼者たち、弘法大師・空海の見た風景や言葉――痛む足を引きずりながら、お坊さん自身が身をもって案内します。
 安倍政権から岸田政権に替わって約1年半、『官邸官僚が本音で語る権力の使い方』(兼原信克・著、佐々木豊成・著、曽我豪・著、高見澤將林・著)は、安部官邸を支えた幹部官僚3人とベテラン政治記者による座談会。なぜ安倍政権は長期安定政権たりえたか、それを実現したポイント、積み残した課題とは――インサイダーの証言と分析で迫ります。「総理大臣はできるだけ長く続けてほしい」と願う著者たちによる、「官邸のトリセツ」です。
うらやましいボケかた』の著者・五木寛之さんは昨秋、卒寿を迎えました。いまも日刊紙や週刊誌で連載を続けるなど、若い頃から変わらない「生産量」ですが、やはり心身のおとろえは常に実感するとか。「老い」をめぐる考え方からフィナンシャルプランやヘルスメソッドまで、種々様々な情報があふれる「人生百年時代」ですが、近ごろ気になるのはやはりボケの問題。90年の人生と思索が凝縮された、晩年を生き抜く34のヒント集です。
2023/03