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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

創刊20周年目の春

 今年もまた新入社の季節です。世間ではマスクなしの入社式がニュースになっていましたが、編集部にあいさつに訪れた新入社員は全員がいまだマスク着用。顔も表情もうかがえない初対面は4年連続となりました。振り返れば世界中で、マスクにかぎらず生活の様々な「自由」が制限されたこの3年余、あらためて考えるべきことは多いようです。
目的への抵抗―シリーズ哲学講話―』(國分功一郎・著)は、コロナへの過剰反応によって〈自由〉が奪われつつあると警鐘を鳴らし"世界的大炎上"をまねいたイタリアの哲学者アガンベンの論考をもとに、「不要不急」と名指しされるものを排する社会、色あせ痩せ細っていく民主主義と、あらゆるものを目的に還元し、そこからはみ出るものを認めようとしない現代社会を浮き彫りにしていきます。アカデミズムの額縁に収まらず、「社会の虻のように」同時代と切り結んでこそ哲学――人気と実力を兼ねそなえた哲学者による、熱い講義です。
国難のインテリジェンス』(佐藤優・著)では、AI、大地震、人口減、宗教、教育、資本主義や天皇制など、14の分野領域のプロフェッショナルたちと、現代日本が抱える難題について深く対話。たしか小泉政権の頃、経団連の幹部が「日本の課題と解決策なんて、本屋に行けば全部書いてある」と言って話題になったことがありましたが、必要なのは「前向きに検討」でも「異次元の対策」でもなく、もはや待ったなしの「解答」なのです。
 難題は国内でも、そして海外でも目の前に山積しています。『2035年の中国―習近平路線は生き残るか―』(宮本雄二・著)は、多くのメディアで専制体制を盤石にしたと伝えられる習近平政権が、実のところ様々な妥協の産物であり、したたかな民意や外交、経済など、強権だけではままならない薄氷の運営を迫られていることを中長期的な歴史から読み解きます。前著『習近平の中国』から8年、中国大使を務めた第一人者による、単なる中国脅威論とは一線を画した読み応えと説得力あふれる一冊です。
 近ごろ何をしていても面白くない、新しいことに興味がわかない......そんな気がしてきたら読んでいただきたいのが、『不老脳』(和田秀樹・著)です。前頭葉は人間活動の中枢で、ここが老化を始めると、感情も意欲も創造性も老化してしまいます。今や日本人の平均年齢は47歳超、ちょうど脳の老化が始まる頃合いですから、世の中がどうも元気がないのも自然と言えばその通りですが、前頭葉を鍛えることはできるのです。どんより澱んだ状態を抜け出し、「80歳の壁」を超え、最後まで楽しく生きるには――和田先生が教えます。
 末尾ながら、新潮新書はこの4月で創刊20年目を迎えます。平成年間で最も売れた本『バカの壁』をはじめ多くのベストセラーを刊行し続けることができたのは、あらゆる知の領域で蒙を啓いてくださった著者の方々と、たくさんの読者のおかげです。あらためて感謝申し上げるとともに、これからも変わらないご協力とご支援を、よろしくお願いいたします。
2023/04