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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

いつのまにか、に流されず

 いつのまにかA社の有料会員になった、いつのまにかB社のソフト以外使えなくなった、C社のOSを更新したらいつのまにか新サービスがバンドルされていた、など巨大ITの製品やサービスに日々依存しきっていると、こうした「いつのまにか」はしばしばあります。背景には市場支配と利益追求には妥協しない、グローバル企業の貪欲さが潜んでいます。
 9月新刊の『国家は巨大ITに勝てるのか』(小林泰明・著)は、読売新聞でメガテック問題を追い続ける記者による渾身のレポート。GAFAMからChatGPTまで、秘密に覆われた彼らのビジネスモデルは、莫大な利益を生むとともに、今や国家権力さえ脅かしつつあります。新たな「世界の覇者」たちのシステムの裏側から巧みなトップ外交術まで、アメリカと日本で取材を積み重ねることで見えてきた、恐るべき現状と未来図をまとめています。
新版 メディアとテロリズム』(福田充・著)は2009年刊行の原著の改訂新版で、安倍元総理のテロ殺害と岸田総理の殺害未遂を踏まえて新章を加筆。安倍氏の事件では犯人の思惑通り、メディアの関心は統一教会に向けられていき、結果として彼のテロは二重に目的を果たすことに。「テロがメディアを利用し、メディアはテロ報道で稼ぐ」という共生関係をテロの歴史とともに分析した異色の論考は、現代社会の矛盾を考える必読書です。
過剰反応な人たち』(中川淳一郎・著)は、週刊新潮での人気連載1年分をまとめた一冊。コンプライアンスもポリコレもSDGsも、何でも行き過ぎると社会は息苦しい。だが、そこにストレスを抱えて生きていくことほどムダなものはない。一人一人ができるのは肩肘張らず、虚勢を張らず、無理せず、背伸びをせず――という生きかたなのかも。コロナ禍3年を経て浮かび上がった、世の中のさまざまなヒビ割れに鋭い突っ込みを入れるコラム集です。
 今月の注目作は、『お客さん物語―飲食店の舞台裏と料理人の本音―』(稲田俊輔・著)。ある時はレストランの店主として、ある時は自ら客として飲食店に足を運び、そこに集うさまざまな人間模様を見聞してきた料理人による、本邦初の「お客さんエッセイ」です。忘れられないお客さん、二度と会いたくないお客さん、文化としての飲食店、そして自らはどのようなお客さんであるべきか......人気の南インド料理店「エリックサウス」総料理長が綴ります。
2023/09