新潮文庫メールマガジン アーカイブス
お知らせ

 最近、この人の文庫を書店でよく目にしませんか?
江上剛さん。『怪物商人』『家電の神様』『庶務行員 多加賀主水が許さない』などなど、ビジネスマンの胸を熱くする小説でヒットを連発しています。

 新潮文庫6月の新刊『特命金融捜査官』も絶好調で、発売後すぐに増刷となりました。

 江上さんは、早稲田大学政治経済学部を卒業した後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)に入行しました。広報部次長だった1997年、第一勧銀の総会屋への利益供与が発覚します。逮捕者は11人に及び、元会長が自殺するという、衝撃的な金融事件を覚えている方も多いでしょう。このとき混乱収拾の最前線に立ち、行内改革を訴えた「改革4人組」のひとりが江上さんでした。未曾有の経済疑獄の真っ只中にいたのです。

 事件後、支店長に昇進した江上さんは『非情銀行』で作家デビュー。作家と支店長の「二足の草鞋」を経て、2003年に作家専業になりました。数多くの作品を世に送り出し、最近はフジテレビ「みんなのニュース」のレギュラーコメンテーターとしてもお馴染みです。

 江上さんの文庫最新長編『特命金融捜査官』は、ひとりの男が失踪するところから始まります。その男は、主人公の伊地知耕介がマークしているベンチャー銀行の専務でした。不正の証拠を握って消えた男を追って、銀行幹部、闇の暴力組織、そして伊地知は沖縄の離島に飛びます。

 伊地知耕介は、金融庁長官の特命を受けて、金融事件の捜査権限を持ち、拳銃の所持も認められた「特命金融捜査官」。現実には存在しない架空の役職です。このキャラクターを作り出した意図を江上さんはこう説明しています。

「これだけ金融にまつわる事件が多発している今、麻薬取締官のように潜入捜査をしたり、大きな事件の発生を未然に防ぐために、組織の枠を超えて動くスーパーパワーを持った人がいてもいいんじゃないか。そんな思いで描いてみました」
江上 剛/人を再生させる島 「波」2015年6月号より →全文へ

 金融の世界の裏も表も知り尽くした経済小説の名手、江上剛が生み出したニューヒーロー伊地知耕介が活躍するエンターテインメント小説『特命金融捜査官』をお楽しみください。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2017年06月15日   お知らせ / 今月の1冊

 時代小説といえば、剣の達人や武士道の世界というのがお決まりのイメージ。でも、 本当に「侍らしい侍」なんていたのでしょうか? じつは江戸の中期は、剣に生きる 人生など過去の価値観となっていました。「武士の一分」よりも、藩政改革や財政立 て直しを要求され、武士の筋目を通さんとすれば、組織に縛られ裏切られ、挙句に身 をやつして用心棒で生計を立てる侍も出てきます。

 直木賞作家・青山文平さんは、 そんな時代を「型通りの生き方が通用しなくなった時代」と捉えています。 「侍らしさ」など全く頼りにならない時代に、侍たちはいかに、自身の人生を掴み取ったか。 青山さんは、「正解」などない人生の岐路と、それぞれの決断を描いていきます。

 友を斬れという重い藩命を受けた男を描く表題作をはじめ、 行き倒れの侍を介抱したことから劇的な結末を迎える「三筋界隈」や、 城内の苛めで出仕できなくなった若侍が再生する「夏の日」など、いまの私たちの隣にいても 不思議でない侍たちの息づかいが伝わる傑作六篇です。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2017年05月15日   お知らせ / 今月の1冊

 新年度です。ご自分の仕事や働き方を考える機会にしたいと考えている人は多いのではないでしょうか。そんなときにちょうどいい本があります。49歳で大企業を左遷され、60歳で起業したライフネット生命の出口治明さんの著書『「働き方」の教科書―人生と仕事とお金の基本―』です。

 出口さんのかねてからの主張は、仕事は人生の3割にすぎないというもの。人間が与えられた時間は1年間=8760時間ですが、日本人の労働時間の平均は約2000時間と言われています。自宅に仕事を持ち帰ったり、休んでいるように見えて仕事のことを考えている時間を入れても3割を超えることはないのです。そして仕事よりもずっと大事なのが、パートナーや友人たちと過ごす残りの時間。出口さんはこう書きます。「『デートと残業とどちらが大事なんだ』そんな言葉で上司に怒られたことのある人もいるでしょう。僕に言わせれば100パーセント、デートに決まっています。比較するのもおこがましい。」

 ちょっと目から鱗が落ちるような気がしませんか。たしかに一人の長時間労働が消費を冷え込ませ、一緒に子育てをするパートナーの時間を縛るのです。みなが法定時間の8時間を集中して働き、そのあとは家族や友人と思い切り遊べば、もっと経済効率も高まるのです。本書にはこんな「当たり前だけど気がつかなかった大事なこと」がたくさん書かれています。

 また、巻末には就職活動中の学生たちの葛藤を描いた『何者』で直木賞を受けた朝井リョウさんとの対談も文庫版だけの特別附録として収録されています。こちらも読み応えたっぷり。ぜひ手にとってみて下さい。(編集担当K)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2017年04月14日   お知らせ / 今月の1冊

 先日、アンドロイドとして私たちの世界に帰ってきた夏目漱石は、2016年12月9日に没後100年、2017年2月9日は生誕150年を迎え、今再び注目を集めています。(少々ややこしいですね。亡くなってから、生まれる。その作品のように不滅の作家、と覚えて頂ければ。)

 重厚な描写を重ねることで人の心を学ばせてくれる、そんな印象の強い作家ですが、意外にも、「名言」と呼ぶべき力強い文句も数多く生み出しています。

「進んでとどまる事を知らない科学は、かつて我々に止まる事を許してれた事がない。」(行人)

「教育もない身分もないばあさんだが、人間としてはすこぶたっとい。」(坊ちゃん)

「どんな夫でも構いませんわ、ただ自分にくしてれさえすれば」(道草)

などなど。
 この度、そういった文句をぎゅぎゅっと集めた一冊が刊行されました。
ずばりタイトルは、『生れて来た以上は、生きねばならぬ―漱石珠玉の言葉―』。

 漱石研究の第一人者・早稲田大学教授の石原千秋先生が、漱石をとらえなおすヒントとして「恋」「人生」「ユーモア」「自己と他者」etc...... などの項目をたて、それぞれに「珠玉の言葉」を並べております。加えて、各項目の終わりに、先生の漱石ガイド的な小解説を書きおろしています。(実は、「生れて来た以上は、生きねばならぬ」も漱石の言葉ですが、どの作品に登場する言葉か、ピンときますでしょうか?)

 一冊を通して鮮やかな新・夏目漱石像を結実する本書は、生粋の漱石ファンにこそおすすめ。長年読みこんできた方に新しい発見、新しい漱石をお届けします。

 新潮文庫公式インスタグラムにて約2か月連続更新を敢行していた「漱石トリビア」も、2月9日ついに完成いたしました。あっと驚くような情報が満載です。どうぞご覧ください。
[新潮文庫公式インスタグラムはこちら

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2017年02月15日   お知らせ / 今月の1冊

 大物芸人にして世界的な映画監督で、作家や画家の顔を持つ当代きっての才人、ビートたけし。でもたけしさん、バリバリの文系かと思いきや、実は数学が大好きな理系脳の持ち主であることも知られていますよね。

 そんなたけしさんが、数学のみならず、生物学や物理学、地学や脳科学といった学問の最先端で活躍する研究者たちと語らう超刺激的な本が、連続刊行されることになりました。

 それが『たけしの面白科学者図鑑』三部作です!

 たけしさんのお相手を務めるのは――現・京大総長でゴリラの生態を研究する山極寿一先生、宇宙をもっともよく知る研究者、村山斉先生、最先端の脳科学を研究し著書も多数ある池谷裕二先生、科学界のインディ・ジョーンズと言われる長沼毅先生、などなど総勢31名。どなたもいずれノーベル賞を受賞してもおかしくない、すごい方々ばかりなんです。

 新潮文庫2月新刊では、主に生物学の話題をまとめた『たけしの面白科学者図鑑―ヘンな生き物がいっぱい!―』、3月新刊では地球や宇宙にまつわる話題を集めた『たけしの面白科学者図鑑―地球も宇宙も謎だらけ―』、そして4月新刊では人間の不思議をとことん追求する『たけしの面白科学者図鑑―人間が一番の神秘だ!―』が刊行されます。

 学者たちの研究内容が知的好奇心を刺激するのはもちろんのこと、彼らのもはや変人すれすれの研究への情熱もまた、面白いんです。各人のキャラクターにひきつけられながら読み進めるうち、「粘菌ってものを考える力があるんだよ」「宇宙ってひとつじゃないことを知ってた?」「前に起こった富士山の噴火はね」とか、人に自慢できるネタを仕入れて、ちょっとした雑学博士になっているかもしれませんよ。

 そしてたけしさんの理解力と幅広い知識には、とにかく驚かされっぱなし。もちろん、対談相手と会う前は、きちんと参考資料を読み込んでいるんですって。そして、たけしさんが科学者へ繰り出す質問からにじみ出るのは、「命とは何か」という非常に壮大なテーマ。天才ビートたけしの考えることは、やっぱりスゴすぎる......。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2017年01月13日   お知らせ / 今月の1冊