ホーム > 新潮文庫 > 新潮文庫メール アーカイブス > 「沼田まほかるさんに聞いてみました」(前編)
新潮文庫メールマガジン アーカイブス
「沼田まほかるさんに聞いてみました」(前編)



 わずか半年の間に60万部が増刷され、本年度の文庫売上ランキングの上位を席巻している小説があります。タイトルは『九月が永遠に続けば』。その作者である沼田まほかるさんの長編小説『アミダサマ』が、このたび新潮文庫より刊行されました。

『九月が永遠に続けば』が第5回ホラーサスペンス大賞を受賞したとき、選考委員はこう評しました。「圧倒された」(桐野夏生)。「文章力で大賞を勝ち取った作品」(唯川恵)。「図抜けた才能を感じた」(綾辻行人)。
 実際に読んだ皆さんからも、沼田さんの文章力や作品の臨場感を讃える声が数多く届けられています。しかしそれ以上に多かったのは「これみよがしでない怖さ」や「リアルで後を引く怖さ」といった実感。

 昨今、さまざまな事件報道で目にする言葉に「心の闇」があります。この決まり文句は言わばジャーナリストにとっての白旗で、「本当のことは当事者以外知りようがない」と読み手を突き放すフレーズです。

 ところが沼田さんの筆は、まさに「心の闇」に囚われた人々を描くのです。沼田作品では、子どものころから平然と殺人を繰り返す人物の内なる声も聞けます。新聞記事なら「心の闇」と投げ打つさまざまな心性を追体験することになるのです。
 そんな登場人物たちが抱える「闇」の中を垣間見ることで私たちは気づきます。「心の闇」は決して一部の犯罪者や異常者だけのものではなく、誰の内にも潜んでいる陥穽だということを。
 その結果「なんてえげつない」と思いつつも頁を繰る手は止められず、登場人物の怯えが感染したように先の読めない展開に慄くことになるのです。たぶんそうなったら、あなたはもう立派な“まほかる中毒”。

 人間存在の深奥を見極める沼田さんの洞察は、いったいどこから生まれてくるのでしょうか。普通の主婦から僧侶へ、さらに建設コンサルタント会社経営といった経歴にその秘密があるのか。それとも目を見ただけでその人のことが分かってしまう恐ろしい女性なのでしょうか。

 そんな沼田まほかるさんの実像に少しでも近づくために、編集部からご本人に質問状を送ってみました。

 以下は沼田まほかるさんとの一問一答です。

「まほかるさんってどんな人?」

――人間観察の方法を、沼田さんは人生のどこで習得したのでしょうか。もしかして何度かの転職が関係していますか?

沼田:映画を観るのが好きなので、名優の演技を通してしみ込んだのではないかと思います。転職が多いのは人づきあいが苦手なせいでもあり、だから現実にも、まるで映画を観るようにアウトサイドから人間模様を眺めていることが多いです。

――来世があるとしたら、沼田さんは男になりたいですか。それとも女性のままがいい?

沼田:もうあんまり生まれ変わったりしたくはないですが、選ばなければならないなら、やっぱり女です。

――怖い物語を紡ぐ沼田さんですが、ご自分では怖がりのほうですか。そしてこの世で一番怖いものは何でしょうか?

沼田:何事にも度を越した怖がりです。なかでもとくに「ム」のつく多足の生き物(3文字)が異常に怖くて、名前を思い浮かべるだけで冷や汗が出ます。庭仕事は何より好きですが、植木鉢の下なんかから「ム」が出てきそうな季節には、常にどこか身構えています。 

――自分が他人とひどく違うなと感じる瞬間ってありますか?

沼田:なぜかわかりませんが、いろいろズレてます。たとえば、ここで腹を立てる、ここで喜ぶというポイントなどです。カバーするのに慢性的に疲れ果てているので、透明人間になりたい願望が強いです。

――歴史上の実在する人物で、好きな人、影響を受けた人は誰ですか?

沼田:二十歳前後にフロイトを読み、未消化なりに、心の底が抜けたような驚愕を覚えました。
ものの見方が変わり、納得し、なんとなく救われたような気もしました。今では古典化し、新味もなくなったかもしれませんが、彼の発見は人々の考え方の根っこのところに脈々と生きていると思います。

――どんなファッションがお好きですか? 和服を着たりなさいますか?

沼田:ファッションといっても、庭仕事をしない日でも庭仕事用の仕事着を着ています。冬ならその上から長めのコートを着て食料の買い出しに行きます。夏はちょっと困ります。こんなんでいいのかと思う気持ちもどこかにあります。和服は持ってません。僧侶時代にはくる日もくる日もいわゆる墨染めの衣を着ていましたが。

――得意な料理は何でしょうか? お好きな食べ物は?

沼田:これといって特別好きなものも思いつきません。そのせいか料理は下手です。ちょうど今、なんとか料理好きになろうと、鍋を買ったりしてあれこれトライしているところです。掃除と炊事が楽しくできれば、それだけで毎日けっこう幸せだろうと思います。

――一番カワイイ、愛おしいと感じるものは何ですか?

沼田:ネコは死んでしまったので今は息子です。遠くにいるし、もういいオジサンですが可愛いです。

 どうでしたか。もしかして沼田まほかるさんのことがますます分からなくなりましたか。それでは少々長くなりましたので、新潮文庫新刊『アミダサマ』について沼田さんにお聞きする後編は12/20に配信いたします。ご期待ください。

(K・Y)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2011年12月10日   今月の1冊
  •    
  •