新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

40歳の壁

 4月10日の創刊から、ようやく半年が過ぎました。『バカの壁』のヒットのおかげもあって、「新潮新書」は新参者ながら、なんとか世間でも認知されつつあるのではないかと思っています。
 とはいっても、その知名度は「岩波新書」や「中公新書」にはまだまだ遠く及びません。新聞やテレビからの取材の際にも、それを痛感することがしばしばです。
 たとえば先日も、某大手新聞の記者とこんなやりとりがありました。

「新潮新書は手書きPOPなども工夫されているようですね」
「ええ。少しでも手にとってもらいたいと努力しているんです」
「いつ頃からやってらっしゃるんですか」
「創刊の時からずっとです」
「じゃあ、もう何年にもなるんですね」
「えっ? うちが創刊したのは今年の4月なんですけど……」
 自分たちが思っているほどには世間の認知度は高くない。まあ、そんなものでしょう。特に新書の場合、同じペーパーバックの文庫と比べて部数も少ないですし、棚も書店の奥の方にあります。世間的には新書そのものが「マイナー」なんですね。
 でも、ほんとは新書の棚ほど面白いものはない。ありとあらゆるジャンルが揃っているし、何かを知りたいと思った時に新書の棚にいけば何かしら手がかりが得られる。そんな「新書」の魅力をぜひ知って欲しい――創刊以来、そう願いながらやってきました。もちろんまだ39冊出しただけですから、たいそうなことは言えませんが、今後もその姿勢だけは貫いていきたいと思っています。

 知名度はまだまだではありますが、知り合いから「あの本読んだよ」と声をかけられる機会は確実に増えました。子供の同級生の親御さんから、「『バカの壁』読みましたよ」とか、「『生活習慣病に克つ新常識』を読んで、あの健康法を実践してるんですよ」などと言われると、嬉しいものです。
 先日は高校の時の同級生2人から久しぶりに電話がかかってきました。「『バカの壁』読んだよー」と、これまた嬉しいことを言ってくれるので、久しぶりに一杯やろうということになりました。(以下、ほんとの会話は鹿児島弁ですが、東京弁に翻訳)
「三重は白髪が増えたねえ。オレは染めてるんだよ」
「髪が残ってるだけマシだって」
 会うなり毛髪の話になったのはご愛嬌。あとはもう、高校時代の思い出話やら、家族や仕事の話だったのですが、会話の端々で「それって『バカの壁』だよな」というセリフが出て、「ああ、ほんとにこの言葉は定着しているんだな」と実感しました。
 この日の「臨時同窓会」で一番ショックだったのは、「40歳の壁」の話でした。私たちの学年は今年40歳になるのですが、一緒に飲んだ3人のうち私と1人はまだ誕生日が来ていないので39歳。唯一40歳になったM君がしみじみとこう言うのです。
「40歳になっても何も変わらないと思っていたんだけど、給与明細を見たら衝撃だったよ。40歳から『介護保険料』が徴収されるんだ。この歳で『介護』だよ。まいったよなあ」
 うーむ。確かに「介護保険」制度については頭では知っていたのですが、こんなに身近に迫っていたとは。「人生の折り返し地点」という言葉が思わず脳裏をよぎりました。
 私の場合、20代の頃は「早く30代になって一人前になりたい」などと思ってましたから、30歳になった時はとても嬉しかった(老け顔だったので、早く外見に追いつきたかったというのもありますが)。でも、40歳を迎える心境はちょっと複雑です。歳を重ねれば一人前になれるのでは、などという幻想はとっくに崩れ、未だに気持ちはガキの頃のまんまだし、いつまでたっても半人前。こんなんで歳ばっかりとって大丈夫かいな、というのが正直なところです。
 まあでも、人はきっとそんなふうに年齢を重ねていくのでしょう。そして、知らず知らずのうちに「老い」に近づいていく――。そう考えると、40歳を境に介護保険料を徴収するというのは、なかなか巧みな制度なのかもしれませんね。

 いつかは必ず訪れる「老後」。そのとき、年金や保険、自分の生活がどうなるのか。おそらくそれは誰もが関心のあるテーマでしょう。しかし、年金や保険の仕組みは、何を読んでも複雑すぎてわかりにくい。とにかく「読めばわかる」という本ができないか、と企画したのが、10月刊の『現代老後の基礎知識』(井脇祐人、水木楊著)です。
 定年を間近に控えた人物のストーリーを交えて、定年の前後から直面するだろう問題を具体的に取り上げて解説した「老後入門」です。長い老後を、元気に有意義に生きるためにも、40代、50代の方にぜひお読みいただければと思います。
 M君! 介護保険料はまだ序の口。オレたちにとっても、この本は必読だよ!

2003/10