新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

間の話

 少し前に、TBSの「情報7days ニュースキャスター」を見ていたら、ビートたけしさんが「数学と映画撮影の関係」について語っていらっしゃいました。映画のカット割と因数分解の共通点というとても興味深いお話だったのですが、かなり早口でしかも相当はしょってお話しされていたので、共演者の方々は皆、ちょっとポカンとしているように見えました。
 ところがこれを見ている私は、お話が全部よく理解できたのです。別に数学や映画に造詣が深いからではありません。10月新刊『間抜けの構造』(ビートたけし・著)を事前に読んでいたからです。この中に「因数分解とカット割」の話も出てきます。
 この本では、映画、漫才、テレビ、落語、会話、人生等々、あらゆるジャンルにおける「間」について、たけしさんが縦横無尽に語っています。「間のいい人」と「間抜け」の差はどこにあるのか。深く鋭い話に、絶妙の間でギャグが差し込まれていて、まさに面白くてためになる一冊です。

 他の新刊もご紹介します。
続・暴力団』(溝口敦・著)は、昨年刊行して27万部を超えるベストセラーになった『暴力団』の続編。『暴力団』は、刊行直前に島田紳助の引退などがあり、結果的にとてもタイムリーな本になりました。今回も、予測していたわけではありませんが、このところ暴力団関連と思われる事件が多発しており、世間の関心が高まっているように思えます。現役の組長、幹部たちは今何を考えているのか、私たちカタギはどういう心構えでいればいいのか、暴力団についての最新知識が詰っています。
ピカソは本当に偉いのか?』(西岡文彦・著)は、タイトルにある素朴な疑問をスタートにした現代美術の入門書。誰もが一度は「あんな絵、誰でも描けるんじゃねえの」と思うのに、大人になると恥ずかしさから封印してしまう疑問。そこを掘っていくと、ピカソ以降の美術の流れ、カラクリが全て見えてきます。知的興奮に満ちた入門書です。
ひっかかる日本語』(梶原しげる・著)は、著者が「粘着気質」を存分に発揮した、稀有な日本語本。「1LDKはワン・エルディーケーと読むのに、3LDKはなぜスリー・エルディーケーではなく、“さんエルディーケー”と読むのだろう?」――こういう細かいことに、ひっかかり始めると、梶原さんはあれこれ考え、あちこちに聞きまわり始めます。何とヒマな、と思われるかもしれません。しかし、その結果、現代日本語の意外な現状や、コミュニケーションの秘訣が見えてくるのです。

 さて、通常は新刊4点を刊行しているのですが、10月はもう一冊、『動乱のインテリジェンス』(佐藤優・手嶋龍一・著)を緊急出版します。
 尖閣、竹島、北朝鮮、イラン、シリア等々、動乱期にある世界を日本最高の外交的知性が鋭く分析した必読の一冊です。新聞やテレビでは絶対に伝えられないディープな情報がぎっしり詰っています。火花散る対談は、まるで剣豪同士の勝負のようです。
 なお、『動乱のインテリジェンス』のみイレギュラーな発売で26日発売になります(他の4点は17日発売)。これは間が悪いのではなく、考え抜いた末の「間」であります。

2012/10