新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

怒らない

 編集長の給料のうちには後進の指導というのも含まれているらしいので、ときどきそういうこともします。しかしこれがあまり得意ではありません。
 喋りながらついイライラしてしまったり、余計な一言を言わないようにと気を使ったり、とにかく疲れるのです。
 最近も新入社員の頃から知っている後輩に長時間説教気味に話をすることがありました。そのあとは仕事にならないくらい(半分言い訳)疲れました。
 11月の新刊、『怒らない働き方―ゼロからはじめる仏教入門―』(川辺秀美・著)で著者は、「どんなビジネス書よりも仏教というOSを脳内にインストールしたほうが、仕事に役立つ」と持論を述べています。そして「信心を持たなくてもいい。それでも仏教を生活に取り入れることで、生き方、働き方は変わる」と言い切ります。どんなお寺に行けばいいか、どんなふうに坐禅を生活に取り入れられるか等々、すぐに実践できる知恵、アイディア、ノウハウが満載です。「怒りをどう前向きな気持ちに昇華させるか」ということについてのアドバイスはすぐに実践したいと思いました。

 残りの新刊3点もご紹介いたします。
外交プロに学ぶ 修羅場の交渉術』(伊奈久喜・著)の著者は、長年外交・安全保障を取材してきた記者。交渉の際に「言ってはいけないフレーズ」「憶えておくといいフレーズ」等、実用的な知識も満載です。たとえば「あなたは○○すべきだ」という言い方。ついつい使いがちですが、これは「言ってはいけないフレーズ」だと著者は指摘します。そうではなくて「○○があなたの唯一の選択肢だ」という風に話を持っていくのが得策だ、と。読みながら、自分の普段の物言いの拙さについてずいぶん反省させられました。
「忠臣蔵」の決算書』(山本博文・著)は、赤穂浪士たちが何にお金を使ったか、「お金」から討ち入りを切り取った歴史読み物です。
 なぜそんなことがわかるのか。実は大石内蔵助が遺した記録が現存しているからです。それによると「討ち入りプロジェクト」の総予算は8400万円。大勢の浪士たちの生活その他を賄うには決して潤沢とは言えません。決算書からは、そのあたりの苦労も読み取れます。『武士の家計簿』を気に入った方にもお勧めです。
誤解だらけの「発達障害」』(河野俊一・著)は、発達の遅れを抱える子供たち約700人を教育してきた私塾の代表からの強いメッセージが込められた一冊。こうしたお子さんを抱えた親が病院に連れて行くと「これも“個性”なので見守りましょう」といった言葉が返ってきて、特に改善策を示されないことも多いのだそうです。
 そんな中、著者は「しつけ」「教育」で発達の遅れを少しでも改善しようという取り組みを続け、着実に実績を残していきました。先進国では新生児の1%が発達障害を抱えているとも言われており、とても身近な問題になっています。多くの悩める親御さんに読んでいただきたいと思います。

 最初に触れた「後輩」は、実はもう40歳だということをその後知りました。若いときから知っていたので、ついつい新米扱いしていたけれど、気づけば随分年月が経っていました。教育やしつけの難しさを改めて感じたのでした。

2012/11