新潮新書
説明が足りない
昨年末あたり、いくつかの政治関連のニュースを読んだり見たりしていると、何だか日本はもう戦前と同じくらい大変な暗黒の時代に突入したようなのですが、とりあえず年が明けても私の日常はいつもと大差ないようで、有り難い限りです。
その手のニュースで違和感があったのは、「政府の説明が足りない」という批判をする人が多いことでした。報道する側は「足りない」と思うのなら、真面目に取材して十分説明をさせればいいだけなのでは……。そう思うので、「説明が足りない」なんて平気でコメントしているキャスターや記者の気持ちは、どうもよくわからないのです。もちろん、読者や視聴者の方は遠慮なく「足りない」と言う権利があります。が、伝える側の立場が平気でそれを言うのは変な気がするのです。十分説明させるために、記者クラブだとか何だとかを持っているのではないでしょうか。
私が記者なら恥ずかしくてそんなこと口にできません。「私は突っ込んだ取材ができていません」と言うのと同じですから。
1月の新刊をご紹介します。
『日本版NSCとは何か』(春原剛彦・著)は、昨年末に発足した日本版NSCについての本邦初の入門書です。手本になったアメリカのNSCの歴史、実力から日本有事の際のシミュレーションまで、あらゆることを網羅。この一冊で、現時点におけるこのテーマに関しての「説明」は尽くされているのではないかと思います。
『仏像鑑賞入門』(島田裕巳・著)は、タイトルそのまま、仏像の見方が一からわかる入門書です。さまざまな秘仏も公開され、現代ほど仏像鑑賞が自由に愉しめる時代は無いそうです。その幸運な時代の恩恵を十分に受けるための知恵をわかりやすく説いています。著者の選んだ「死ぬまでに見るべき10体」リスト付き。
『心を操る文章術』(清水義範・著)は、パスティーシュ文学の第一人者があらゆるテクニック、手の内を明かした文章読本です。文章で読み手を「笑わせる」「泣かせる」「怒らせる」「怖がらせる」「和ませる」には、どのようにすればいいのか、古今の名作や自作をテキストに、ロジカルかつユーモラスに教えてくれます。
『正義の偽装』(佐伯啓思・著)は、稀代の思想家による日本論。すべての頁に鋭い指摘があると言っても過言ではありません。今適当に開いたページには、こんな一文がありました。
「われわれは、一方で、指導者に対してわれわれにはない卓越性とたぐいまれな力量を求め、他方では、指導者はわれわれと同類であるべきだといっているのです。」
紋切り型の「キャスター」のコメントとは数百光年離れたレベルの言葉が詰っています。
どの本も、それぞれのテーマについて「十分すぎる説明」がなされた本だと確信しております。
今年も新潮新書をよろしくお願い申し上げます。