新潮新書
冷静な議論のために
芦田愛菜ちゃんのドラマが非難にさらされています。
その騒動を見て思い出したのは、週刊誌記者をやっていた頃のことでした。テレビドラマの記者像には、ずいぶん傷つき、差別だと感じました。とにかく下衆の極みという感じで描かれるのです。取材相手に暴言を浴びせたり、そもそも取材もかけないで記事にしたり、「こんなアウトロー、編集部のどこにもいないよ」といつも思っていました。
子どもと大人は事情が違うのかもしれません。でもそういえば、子どもの時にもドラマで傷ついた気がします。学園ドラマでは、真面目な生徒よりも、無法者とかヤンキーのほうが実は人間味があるように描かれるのです。私のように読書が趣味で、メガネをかけている普通の生徒は、最終的に「人の気持がわからない奴」とされたものです。あの時の私にはテレビに抗議するなんて知恵はありませんでした。
2月新刊の『日本人のための「集団的自衛権」入門』(石破茂・著)は、ある種の人には不愉快な本なのかもしれません。著者に対しては、昨年、ブログの文章がもとで激しいバッシングが起こりました。しかし、その時も今回も、著者の立場は一貫しています。
意見が対立しているのならば、まず事実に基づいた、理性的な議論をしましょう、ということです。だからこの本では「集団的自衛権? とんでもない!」という人がよく口にする疑問や懸念にできるだけ丁寧に答えるようにしています。大事な問題だけに、冷静な議論が望まれますし、そのためにこの本が役立てば、と思います。
他の3点をご紹介します。
『戦犯の孫―「日本人」はいかに裁かれてきたか―』(林英一・著)は、1984年生れの若い著者が、戦後史であまり語られなかった部分に挑んだ力作です。「戦犯」とは何か。その罪はいつまで背負うものなのか。実際の子孫への取材も盛り込んでおり、読み応え抜群。靖国参拝問題について考えるのにも最適です。
『ヒト、動物に会う―コバヤシ教授の動物行動学―』(小林朋道・著)は、愉快かつ味わい深い読み物。動物行動学者である著者がこれまで触れ合ってきた動物との交流を描きます。触れ合う、といっても多くの場合は飼育。コウモリ、プレーリードッグ、カラス等々、普通は飼わない動物を飼うところから始まる物語に、ニヤニヤし、ときどきシミジミさせられます。
『資格を取ると貧乏になります』(佐藤留美・著)は、ちょっと衝撃的な内容かもしれません。弁護士、公認会計士、税理士といった「一流の資格」を取っても、喰っていけない人が増えている現状をレポートします。比喩ではなく、本当に貧乏なのです。弁護士=エリート=お金持ちと思っていたら大間違いなことがよくわかりました。
「一所懸命資格を取ろうとして勉強しているのに、冷水を浴びせやがって。傷ついた! 出版するな!」という人が出てこないことを祈ります。
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