新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

年末のご挨拶

 年末になるとあちこちでベストテンが発表されます。立場上、「新潮新書今年のベストテン」なんてものは書きづらいですし、別に面白くもないでしょうから、最近読んだ他社の新書で面白かったものを一冊、ご紹介します。『TVディレクターの演出術』(高橋弘樹・著、ちくま新書)は、テレビ東京でディレクターをつとめる著者が、自らの手の内を明かした本です。
 そんなもの、何の役に立つのか。そう思われるかもしれませんが、単純に業界裏話モノとしても楽しめますし、一般的な仕事術としても活用できる内容になっていました。あまり言語化されていない領域について、丁寧に論理的に説明している姿勢が素晴らしいと思いました。きっとこの著者がこのように書かなければ、言葉として残らなかったかもしれない知恵、ノウハウが書かれています。一見、ゆるくつくっているように見える「空から日本を見てみよう」のような番組に、思った以上の知恵が詰っていることがわかり、大変感心させられました。

 他社の宣伝はこのくらいにして、新潮新書の12月の新刊をご紹介します。
知の武装―救国のインテリジェンス―』(手嶋龍一、佐藤優・著)は、現在の世界情勢からインテリジェンスの基礎まで、すべてを語りつくした一冊。インテリジェンスの達人同士だけに、話の深さは他の追随を許しません。東京五輪開催決定が、尖閣問題にどう影響するか、なんて話は他では読めないはずです。プーチン、習近平、安倍総理等の頭の中も見えてきます。世界の読み解き方がわかり、ニュースの見方ががらっと変わること間違いなしです。
フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか』(浦久俊彦・著)は、音楽の見方ががらっと変わること間違いなしの一冊。19世紀を代表する作曲家・ピアニストとしてリストの名は有名ですが、どういう人だったのかは意外と知られていません。実は「元祖アイドル」であり、また「世界ツアー」を敢行した最初のミュージシャンなのです。彼の存在がなければ、現代の音楽シーンはかなり違ったものになっていたことでしょう。クラシックに相当うとい私でも興奮しながらぐいぐい読めたので、誰が読んでも面白い本になっているはずです。
明治めちゃくちゃ物語 維新の後始末』(野口武彦・著)は、人気シリーズの完結編。といっても前作までを読んでいる必要はまったくありません。明治維新という大規模な突貫工事がどのように行われたか、サムライたちはどうリストラされたかを活写しています。「維新」って響きはいいんだけど、実態はなんだかなあ……ということがよくわかります(別に今の話をしているわけではありません)。
現場主義の競争戦略―次代への日本産業論―』(藤本隆宏・著)は、東京大学ものづくり経営研究センター長による元気が出てくるビジネス書。とかく「日本のものづくりの時代は終わった」式の悲観的な論調が目立ちますが(最近もそういう新書が出ていた)、そんなことは無い、と著者は断言します。日本の現場力の強さは相当なものだと言うのです。実際に数多くの工場を見てきた著者だけに説得力は抜群。
和食の知られざる世界』(辻芳樹・著)は、世界無形文化遺産にしていされたばかりの「和食」の過去、現在、未来について、辻調理師専門学校校長が語りつくした一冊。8歳の時から一流の料亭で食事をとるなど、父・辻静雄氏から味覚の英才教育を受けてきた著者だけに、普通のグルメ本とは一線を画した内容になっています。なぜ和食は世界で賞賛されるのか、良い店はどこが違うのか、きちんと味わうためにはどうすればいいのか等々、美味しいものが好きな人には堪らない情報が詰っています。

 今年も読んでいただきありがとうございました。
 皆様よい年をお迎えください。

2013/12