新潮新書

あるDJの降板

子供の頃、ラジオで「オールジャパンポップス20」という洋楽のランキング番組を毎週聴いていました。発表されるランキングを毎週ノートに記録していました。ベイシティローラーズがやたらと人気だった時代です。そのメモはいまだに手元にあります。何の資料価値もありませんが。
聴き始めてしばらくして、番組のDJが降板することになりました。降板の回の放送のことも何となく記憶しています。そのDJは、陽気に別れを告げながら、汽笛と共に波止場から船で去っていきました(もちろんそういう効果音を使った演出です)。
もう40年近く前のラジオのことを思い出したのには、きっかけがあったのですが、そのことは後回しにして、11月の新刊をご紹介いたします。
『EU崩壊』(木村正人・著)は、現在進行形の問題をジャーナリストが捉えたルポルタージュ。発足時にはずいぶん持て囃されたEUですが、ギリシャやイタリアの例を持ち出すまでもなく、今では破綻寸前。「大欧州」がどこに向かうのか、全体像をこの一冊でつかむことができます。
『交通事故学』(石田敏郎・著)は、ドライバー必携の一冊。事故を起こす人と起こさない人との違いはなにか、交通心理学の観点から教えてくれます。これを読んでおけば、事故のリスクを減らすことができると思えば、735円は激安のはずです。
『史論の復権』(與那覇潤ほか)は、気鋭の歴史研究者が7人の賢人と向き合った対論集。経済学者、官僚から大河ドラマのプロデューサーまで、多様なジャンルの人たちとの議論から、「歴史を学ぶ意味」が浮かび上がります。
『知的創造の作法』(阿刀田高・著)は、数多くの名短編と、ややこしい話をきわめてわかりやすく解説してくれる「知っていますか」シリーズの著者が、教えてくれる「アイデアの井戸」の掘り方。「どうやってアイデアを思いつくか」「そのアイデアをどう活かすか」「わかりやすい説明のコツとは」等々。過去の作品をどう思いついたか、執筆秘話も豊富なので、ファンにとっては堪えられない内容ですし、ビジネスにも使えるヒントが盛り込まれています。
昔のラジオ番組を思い出したのは、みのもんたさんの「謝罪」会見を見たからでした。汽笛と共に去っていったDJは、若き日のみのさんだったのです。あの頃の降板は、リスナー以外の人間にとってはどうでもいいことでしたが、今回は大変な騒動になりました。
個人的には、あの頃あんなに面白くて爽快な感じだった人が、長い年月を経てああいう感じになっていることが、かなり残念でした。
きっと阿刀田さんならば、こういう小さな出来事からも、アイデアを育てていって、驚くほど面白い短編を生み出すのだろうなあ、と思います。
今月も新潮新書をよろしくお願いします。
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