新潮新書
春といえば
先日、都内で桜を見ながら歩いていたら、テレビ局のクルーに声をかけられました。
「ちょっとだけ、お時間よろしいでしょうか?」
「はあ、いいですよ」と答えると、「あなたにとって春の名曲といえば?」
そこで答えにつまってしまいました。40数年間生きてきて1度も考えたことがないテーマだったからです。えーと、えーと、と言いながら、とりあえず「『春一番』(キャンディーズ)、ですかね」と苦し紛れに答えると、「何かそれにちなんだ思い出はありますか?」。
「ありません」と答えると、相手は(こいつ、使えねえな)と思ったのでしょう。「ありがとうございました」と言ってさっさと去っていきました。
卒業とか就職とかそういう春関連のイベントを経験して間もない人ならともかく、中高年ですぐに「春といえばアレです」と即答できる人はどのくらいいるのでしょうか。
この数年、私にとって春といえば、「新潮新書創刊○周年フェア」の時期、ということになります。おかげさまで今年は11周年。書店用のパネルやPOPには、新潮新書初のゆるキャラ、「しんしょさん」も登場しています。可愛いので、それだけでもご覧いただけると嬉しいです。
その11周年を飾る新刊5点をご紹介します。
『風通しのいい生き方』(曽野綾子・著)は、「家も人間関係も風通しが大事」と語る著者の人生論。「自分が傷つかずに他者は救えない」「できない約束をするのは詐欺である」「人生に対する責任者は自分でしかない」等々、読むだけで背筋の伸びるような言葉が並んでいます。
『働かないオジサンの給料はなぜ高いのか―人事評価の真実―』(楠木新・著)は、大手企業で長年人事畑にいた現役サラリーマンが、人事のメカニズムをきれいに解き明かしたビジネス書。タイトルにある素朴な疑問を考えていくと、日本企業の特異性が浮かび上がります。特定の人の顔が浮かんだ方はぜひ開いてみてください。
『「ストーカー」は何を考えているか』(小早川明子・著)は、ストーカー対策に取り組んできた著者による力作。これまで500人以上のストーカーと向き合ってきただけあって、豊富な具体例をもとに、彼らの心理や、被害を受けた時の対策を丁寧に説明してくれています。紹介されるエピソードの数々は、ホラー小説よりもリアルではるかに怖いです。
『頭の悪い日本語』(小谷野敦・著)は、著者の真骨頂とも言うべき、毒と刺激に満ちた内容。「すべからく役不足であることが、現内閣の喫緊の命題である」――こんな文章を見て、どこがヘンなのかわからないという方は読んでおいたほうがいいでしょう(間違いは3か所あります)。
『だから日本はズレている』(古市憲寿・著)は、20代の社会学者による日本論。「若手知識人」とされる人の本の場合、「こういうわけで団塊世代はダメ」とか「日本の民主主義は遅れている」といったステレオタイプの議論が多いのですが、この本は一味も二味も違います。安易な「リーダー待望論」から、「ノマドブーム」まで、「この国のズレ」を次々に見つけては、鋭いツッコミを入れまくります。凡百の「若者が物申す」本とはまったく異なる、これまた刺激的な内容です。著者は、テレビのコメンテイターとしてもお馴染みでしょう。
テレビ局の人が去ってから1時間ほどして、「ああそういえば、一番好きな春の曲は『春咲小紅』(矢野顕子)だなあ」と思いました。私はコメンテイターにはなれそうにありません。