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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

日本で暮せてよかった

 パスポートが失効して、もう10年以上になります。このグローバル化が進む中、一体どうなってんだと言われそうですが、少しだけ理由があります。
 若手の頃に在籍していた週刊誌の編集長は、ちょっとだけ計画性に欠けるというか、突発的な指令を出すところがありました。そのため、「明日からグアム行け」「明後日から香港行け」といった唐突な海外出張を命じられることがありました。
 もともと、さほど出張が好きではないうえに、唐突な指令には、突拍子もない使命がセットになっていたので、海外出張は恐怖の対象でした。言葉もできない土地での取材や張り込みは本当に面倒なのです。
 どうにかして逃げたい。そう思った私は、ある時、パスポートが失効したままにして放っておいたのです。これなら命じられても、堂々と「行けない」と言えるからです。そのまま10年以上経ってしまいました。
 そういう人間なので、世界を知っているとはまったく言えませんが、しかし書籍や新聞、テレビで諸外国のことを見聞きすると、とりあえず日本で暮せてよかったなあと思うことが多くあります。確かに老後のこと、年金のこと、いろいろ心配ですが、そもそもそんな先のことを考えられない人のほうが世界には多いのですから。

日本人に生まれて、まあよかった』(平川祐弘・著)は、東大名誉教授(比較文化史)の著者が、80余年の人生を振り返りながら語る、日本論。タイトルは、夏目漱石の書いた『韓満所感』にある文章、「余は幸にして日本人に生れたと云ふ自覚を得た」「余は支那人や朝鮮人に生れなくつて、まあ善かつたと思つた」を踏まえたものです。
 国を守るとはどういうことか、戦後日本の歴史認識の間違いとは何か、世界で「もてる」日本人をつくるにはどうすればいいか等々、読み進めるうちに、「まあよかった」もしくは「本当によかった」という気持ちが強くなっていくはずです。自虐的な国家論に飽き飽きしている方には、特に強くお勧めします。
経団連―落日の財界総本山―』(安西巧・著)は、戦後の政財界で大きな役割を果たしてきたこの団体について、人物ドラマを織り込みながら描いた組織研究。歴代の名物会長らのエピソードは小説なみに面白く、ニュースでよく耳にするけど、結局何をしているところだっけ? という人(私もその1人でした)にもお勧めです。
「超常現象」を本気で科学する』(石川幹人・著)は、明治大学で超心理学を研究する著者が「幽霊」「ESP」などについて、科学者の立場から「ここまでわかった」「ここはわからない」を解説してくれる一冊。「全部インチキ」と糾弾するわけでもなく、かといって「全部ホント」と信じ込むわけでもない、ニュートラルなスタンスがとても新鮮です。ビートたけしさんの推薦もオビには載っています。
その「つぶやき」は犯罪です―知らないとマズいネットの法律知識―』(鳥飼重和・監修)は、弁護士がネット関連のトラブルについて解説した入門書。SNSの発達により、誰もが加害者にも被害者にもなりうる時代になりました。「あいつはバカ」という書き込みと「あいつはテストで0点を取った」という書き込み、どっちが悪質とされるか? 等、具体的な事例をもとに解説を加えた本書は、現代人必読の「身を守るマニュアル」と言えるでしょう。

 どれも読んでよかった、という本です。よろしくお願いします。

2014/05