新潮新書
この惑星の話
サントリーの缶コーヒー「BOSS」の新しいCMの冒頭では、「この惑星では、見た目が9割と言われている」というナレーションが入ります。もちろん、これは新潮新書の『人は見た目が9割』から取ったフレーズでしょう。現在、同書は113万部。本も100万部を超えると、タイトルがことわざみたいに使われるのだなあと思いました。ついでにいえば、サントリーからは何もいただいていません。贅沢は言わないので、編集部に「BOSS」でも送ってくれないかなあとも思いました。いや本音を言えば、ビールのほうがありがたいのですが。
その『人は見た目が9割』よりもさらに売れたのが、『バカの壁』(養老孟司・著)です。こちらのタイトルも、あちこちでいろいろな形で使われてきました。
6月の新刊『「自分」の壁』は、その養老さんの「壁」シリーズの4冊目にして、最新刊です。2003年の『バカの壁』に始まり、『死の壁』『超バカの壁』と続いたこのシリーズは、累計で580万部に達しています。
今回は、「自分とは何か」という普遍的な問いから始まるのですが、その答えは養老さんだけに、通り一遍のものではありません。
「自分とは地図の中の矢印である」
何だそれ? と思う方も多いでしょうが、読み進めれば、この仮説に納得していくはずです。この話を端緒に、日本社会、エネルギー問題、政治、医療、情報化社会、人生論へと様々なテーマについて論じていきます。
他の3点についてもご紹介いたします。
『1949年の大東亜共栄圏―自主防衛への終わらざる戦い―』(有馬哲夫・著)は、CIA文書など発掘資料をもとに描いた昭和裏面史。多くの日本人にとって、1945年で戦争は終わったのですが、その後も戦い続けた人たちがいました。陸軍大将、大本営参謀、大物政商……ある者はアメリカと手を組んで反共活動に身を捧げ、ある者は日本軍復活のために奔走したのです。
現在の憲法9条改正や集団的自衛権問題などにもつながる壮大な物語は、歴史好きには堪らない内容です。
『ルポ 介護独身』(山村基毅・著)は、新しい社会問題に光を当てた力作。少子高齢化と晩婚化によって、「独身で親の介護を続ける人」「親の介護のために独身のままの人」が増えています。彼らの生活を丹念に追うことで、現代の様々な問題が見えてきます。明るい話ではありませんが、目をそむけてはいけないテーマです。
『警視庁科学捜査最前線』(今井良・著)は、第一線で取材する記者が捜査の最新事情から裏舞台までを徹底解説した1冊。誘拐犯からの電話を苦労していたのは昔の話で、今はあっという間に逆探知できる、なんて豆情報が詰っています。「パソコン遠隔操作ウイルス事件」「『黒子のバスケ』脅迫事件」など最近の事件についても多く触れていて、読み応えがあります。警察小説やドラマが今より楽しめること請け合いです。
今月も新潮新書をよろしくお願いします。