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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

売らんかな主義について

 少し前に、ある版元の原稿料未払いトラブルが話題になっていました。ずっと雑誌に連載をしている作家に、全然原稿料を払っていなかったことを告発されたのです。
 同じ不景気な業界にいる者としては他人事ではないと思いつつ、ちょっと別のことも考えていました。
 時折、私たちの刊行する書籍や雑誌に対して「売らんかな主義だ」といった意見を言う人がいます。「商売熱心でエラい」と褒めてくれているわけではなくて、どうやら批判しているようです。
 でも、言うまでもなく、私たちの商売は、本や雑誌を買っていただくことで成立しています。売るために日々ひ弱な体と足りない頭を使っているのです。
 他人の仕事に対して、このような物言いをする方は、どこかで商売というものを蔑んでいるのではないか、という気がします。ひょっとして貯金か家賃収入だけで生活しているのでしょうか。それともヒモでしょうか。資本主義に対して無意識に憎しみを持っていらっしゃるのかもしれません。
 件の雑誌でも、私たちの刊行物について、「売らんかなだ」といった批判を目にした記憶があります。でも、きちんと売って、きちんとあちこちとの約束を守れていることは、批判されるようなことではないのでは、と思うのです。

 今月の新刊4点をご紹介します。
医師の一分』(里見清一・著)は、現役の臨床医が本音で綴った、現代人の「死に方」に関する考察。90歳過ぎの老衰患者に抗生物質を投与し、点滴をし、透析を行いペースメーカーまで入れて、何のために「救う」というのか? シニカルでかつ深遠な指摘の数々にはハッとさせられます。

将軍と側近―室鳩巣の手紙を読む―』(福留真紀・著)は、室鳩巣(むろきゅうそう)という儒学者の遺した手紙をもとに、徳川幕府の内情を描いた歴史物。いつの世も、政治というものは人間臭いものなのだなあとわかります。『元禄御畳奉行の日記』(中公新書)や、『武士の家計簿』(新潮新書)などが好きな方ならば必ず楽しめるはず。

がんばると迷惑な人』(太田肇・著)は、企業人、組織人ならば読んで損はない1冊です。「努力は必ず報われる」「かいた汗の分だけご褒美がある」といった物言いは、一見もっともらしく、美しいのですが、実際にはそうでもないことは働いたことがある方ならばご存じの通りです。また、タイトル通り、空回りして周囲に迷惑がられる人もいます。本書は、そういう人たちの問題点を指摘しながら、これから私たちに必要な「合理的手抜き」とはどのようなものかを示しています。

賢者の戦略―生き残るためのインテリジェンス―』(手嶋龍一、佐藤優・著)は、日本最強の「外交的知性」2人が正面からぶつかった濃厚な1冊。イスラム国、ウクライナ危機、集団的自衛権、北朝鮮拉致問題等々、あらゆる問題に関するディープかつ意表をつく情報分析が盛り込まれていて、その濃厚さには息が詰まるほど。2015年の世界を知るには、必読です。

 なお、この『賢者の戦略』で新潮新書はちょうど600点となりました。これも買ってくださる皆様のおかげだと心から感謝しております。

2014/12