新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

天才の話

 故・立川談志さんは、天才の条件として質と量を兼ね合わせていることを挙げ、具体的には手塚治虫とダ・ヴィンチだと語っていました(ちょっとうろ覚えですが、大体こんな内容でした)。質と量という点ではビートルズもそうだったと思うのですが、残念ながら私はリアルタイムで体験はできませんでした。
 でも、幸いなことに全盛期を体験できた天才ミュージシャンがいます。プリンスです。
 今でも現役バリバリですが、80年代~90年代前半のプリンスの「質と量」は凄まじいものがありました。異常なスピードで発売されるアルバムのクオリティと斬新さには驚かされっぱなしでした。その凄さを知らない人には「半裸の不気味なおじさん」くらいにしか思われていないのは悲しいことです。
 ファンはもちろん、よく知らない人にも読んでいただきたいのが、9月刊『プリンス論』(西寺郷太・著)です。
 どこが凄いのか。どれだけ凄いのか。マイケル・ジャクソンに関する著作でも知られる西寺さんが、ミュージシャンならではの視点を盛り込んでふんだんに語ってくれています。読後、ファンならば昔のアルバムを聴きたくなること必至ですし、知らない人はきっとユーチューブで検索を始めるはずです。

 他の新刊3点もご紹介します。

日本を愛した植民地―南洋パラオの真実―』(荒井利子・著)は、ミクロネシア、パラオの日本統治時代を、現地の老人たちへの聞き取りをもとに描いた労作。戦争で甚大な被害を受けたにも関わらず、現地の人たちは日本時代を懐かしみ、「あの頃は良かった」と語ります。なぜ彼らは戦後も日本を恨まないのか。著者の丹念な取材から、意外な事実が浮かび上がります。

中国人の頭の中』(青樹明子・著)は、中国で長年生活した著者が描くリアルな中国人の実像。「抗日ドラマ」に熱狂しつつ、日本に来れば「爆買い」をする彼らの思考回路はどうなっているのか。「日本が好きになってしまった」彼らは何を考えているのか。普通の中国人たちの考え方がよくわかります。

左翼も右翼もウソばかり』(古谷経衡・著)は、80年代生まれの若き論客が鋭く日本を抉った社会論。いたずらに危機を煽る左翼、耳に心地いい情報だけを信じる右翼。彼らはいずれも己の願望を事実であるかのように語っているに過ぎない――そう喝破する著者は、巷の通説、俗説を次々に斬っていきます。

 毎月4点、質と量を兼ね合わせた本の刊行を心がけております。
 今月も新潮新書をよろしくお願いいたします。

2015/09