新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

パクリの話

 いまさら話題にするのかよ、と思われるかもしれませんが、東京オリンピックのエンブレムの「パクリ問題」について、ひっかかっていることがあります。あれがパクリかどうかとか、そういうことではなくて、テレビの情報番組であのデザイナーを批判、糾弾していた人のことです。
 なぜひっかかったかといえば、他人事のようにコメントしていた中には、私の知る限り「えっ、貴方が他人のパクリを批判できるの」というような人も見受けられたからです。
 先輩の画風を丸パクリしていた漫画家や、海外の人気バンドのアレンジをそのまま使っていたミュージシャン……そんな人たちが居丈高に、「パクリはいかん」と言っていることがとても不思議でした。さらに言えば、テレビ局そのものがパクリの巣窟。人気番組やベストセラーをそのままパクったような企画がいくらでもあります。
 だから何でもパクっていいなんて全く思いませんが、もうちょっと冷静に議論ができればよかったのに、と今でも思っています。

 パクリに大変厳しいそういう人たちが、11月新刊の『三島由紀夫の言葉 人間の性』(佐藤秀明・編)を書店で見たら、どんな反応を示すのでしょうか。この本には、通常のカバーの上に、カバーと同じサイズのオビ(通称・フルオビ)を巻いているので、見た目がいつもの新潮新書とはかなり異なります。
 なぜそういうデザインにしたかは、ぜひ現物を見てみてください。はっきり言って、あるデザインを完全にパクっています。でも、何の問題もないことは普通の人ならばすぐに理解してくださるでしょう。
 本の中味は、三島由紀夫研究の第一人者が厳選した、「至極の名言集」。過去の膨大な著作から選び抜かれた言葉の数々は、恐ろしいほどの切れ味です。

 他の3点もご紹介します。

毛沢東―日本軍と共謀した男―』(遠藤誉・著)は、中国研究の第一人者が描いた力作にして問題作。「建国の父」である毛沢東は、実は日本軍と共謀していたことを資料をもとに立証していきます。「日本と闘って中華人民共和国を作った」などというストーリーは「神話」に過ぎないことがよくわかります。
宇宙を動かす力は何か―日常から観る物理の話―』(松浦壮・著)は、慶應義塾大学で文系学生相手に物理学を教えている著者の初の著作。数学が苦手な学生相手に教え続けたことで極限にまで向上した説明のスキルをフル活用しているため、物理学の本としては驚くほどにわかりやすいはずです。「AKB48の総選挙」についての話を読んでいると思ったら、いつの間にか相対性理論が理解できていた……という仕掛けになっています。
市川崑と『犬神家の一族』』(春日太一・著)は、この11月に生誕100年を迎える巨匠の人生と作品を描いた評論――というと、何だか渋い内容に思われるかもしれませんが、これが掛け値なしに面白い作品となっています。「金田一耕助」こと石坂浩二さんへのロングインタビューも読みごたえ抜群。個人的には、某大女優(本文では実名)のことを「監督クラッシャー」と評したあたりは、凄いと思いました。

 以上4点、パクられるくらいのヒット作になることを願っております。

2015/11