新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

忙しい話

 AIの時代になれば、人間の仕事が減るとか、単純作業が減るとか、そういったことをよく見聞きします。そうなると失業するのか、仕事がラクになるのか、そのへんはよくわかりません。
 しかしそういえば、少し前には「ITの時代になれば~」という感じで同じような話を聞いた気がします。実際にはITの時代になって、仕事は増えています。細かい仕事が増えました。紙の本だけ作っていれば済んだのに、それ以外の仕事もたくさん出て来て、全然ラクになっていません。むしろ忙しくなっています。前よりも職場でボーッとしている時間も減った気がします。ボーッとするな、という話なんですが。

 しかしこの程度で忙しがっていてはいけない、と坂上忍さんをテレビで見ると思います。同世代の坂上さんが、あれだけ多忙なスケジュールで仕事をこなし、なおかつ常に高いテンションを保っている姿を見ると文句も言えません。数日前には、悪徳探偵と対決! なんてえらく緊張度が高そうなことまでやっていらっしゃいました。

 3月新刊『おまえの代わりなんていくらだっている―覚悟の仕事論―』(坂上忍・著)は、その坂上さんの仕事論、人生論をまとめた1冊。タイトルに象徴される覚悟をもっているからこそ、あの殺人的なスケジュールを乗り切れるのだ、ということがわかります。テレビ業界の裏話も多数。

 他の新刊もご紹介します。

「毒親」の正体―精神科医の診察室から―』(水島広子・著)は、最近よく問題になる「毒親」への対処法を、精神科医の立場からまとめた内容。著者は、かなりの「毒親」が実は発達障害などを抱えているのではないか、という仮説を提示しています。この仮説は、ときに被害者の反発を買うこともあるのですが、本書の記述は説得力に満ちています。本気で悩んでいる方にも、興味本位の方にもお勧めします。
名門水野家の復活―御曹司と婿養子が紡いだ100年―』(福留真紀・著)は、ドラマチックな復活劇を描いた歴史書。六代目藩主のときの不祥事で没落した名門水野家を八代忠友と九代忠成がいかにして立て直したかを活写します。
金正恩―恐怖と不条理の統治構造―』(朴斗鎮・著)は、目下、世界でもっとも注目されている人物のすべてを網羅した入門書。生い立ち、性格、政策等々、これ1冊で丸ごとわかります。よく「したたかな外交」などと言われますが、そんな立派なものではないことがよくわかりました。

 通常新刊は4点を中旬に刊行するだけなのですが、今月は変則的にもう1冊、月末に刊行されます。
 それが『素顔の西郷隆盛』(磯田道史・著)。
 磯田さんについてはもはや説明不要でしょう。いまもっとも歴史を面白く語れる学者です。大河ドラマ「西郷どん」の時代考証者でもある磯田さんが、維新史を活き活きと語った内容が面白くないはずがありません。大河ドラマファンはもちろん、日本史に疎い人にもお勧めです。
 私以外の部員が忙しく働いたおかげで5点となった新潮新書を今月もよろしくお願いします。

2018/03