数多くの受賞歴を誇る名作が文庫化! 痛快で新しい冒険シリーズが今始まる。

精霊の守り人
読み仮名 | セイレイノモリビト |
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シリーズ名 | 新潮文庫 |
発行形態 | 文庫 |
判型 | 新潮文庫 |
ISBN | 978-4-10-130272-0 |
C-CODE | 0193 |
整理番号 | う-18-2 |
ジャンル | SF・ホラー・ファンタジー |
定価 | 637円 |
老練な女用心棒バルサは、新ヨゴ皇国の二ノ妃から皇子チャグムを託される。精霊の卵を宿した息子を疎み、父帝が差し向けてくる刺客や、異界の魔物から幼いチャグムを守るため、バルサは身体を張って戦い続ける。建国神話の秘密、先住民の伝承など文化人類学者らしい緻密な世界構築が評判を呼び、数多くの受賞歴を誇るロングセラーがついに文庫化。痛快で新しい冒険シリーズが今始まる。
どういう本?
一行に出会う | わたしはね、骨の髄から、戦うことが好きなんだよ。(本書242ぺージ) |
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著者プロフィール
上橋菜穂子 ウエハシ・ナホコ
1962(昭和37)年東京生れ。川村学園女子大学特任教授。オーストラリアの先住民族アボリジニを研究中。著書に、『狐笛のかなた』(野間児童文芸賞)の他に、『精霊の守り人』(野間児童文芸新人賞、産経児童出版文化賞、バチェルダー賞)、『闇の守り人』(日本児童文学者協会賞)、『夢の守り人』(路傍の石文学賞)、『神の守り人』(小学館児童出版文化賞)、『天と地の守り人』、『虚空の旅人』、『蒼路の旅人』、『流れ行く者』、『炎路を行く者』、『「守り人」のすべて』、『獣の奏者』、『物語ること、生きること』、『隣のアボリジニ』、『鹿の王』(本屋大賞、日本医療小説大賞)などがある。2002(平成14)年「守り人」シリーズで巖谷小波文芸賞受賞。2014年国際アンデルセン賞作家賞受賞。
書評
日本の異世界ファンタジーを代表する名作
上橋菜穂子『守り人』シリーズがついに完結した。
昨秋出た『獣の奏者』も各所で絶賛を博し、現在ベストセラー街道を驀進中だが、上橋菜穂子の代表作と言えばやはりこちら。十年余にわたって書き継がれ、野間児童文芸新人賞、路傍の石文学賞、巌谷小波文芸賞、小学館児童出版文化賞など、児童文学界のあらゆる賞を総ナメにしてきた大河小説だ。
完結を機に全十巻を一気に読み通して、今さらながら、つくづく凄いとため息をついた。J・R・R・トールキン『指輪物語』やアーシュラ・K・ル=グウィン『ゲド戦記』の日本版――とまで言うとさすがに贔屓の引き倒しになりそうだが、児童文学の枠を超えて、日本語で書かれた異世界ファンタジーを代表するシリーズであることはまちがいない。
その第一巻『精霊の守り人』が、単行本初版刊行から十年余を経て、初めて文庫化される。さらにこの四月からは、NHK-BS2の衛星アニメ劇場枠でアニメ版(神山健治監督)の放送がスタートする。この二十年間にTVアニメ化された国産ファンタジー小説は山ほどあるが、そのほとんどがライトノベル系。児童文学は非常に珍しく、衛星アニメのファンタジーも、これまでは小野不由美『十二国記』、喬林知《まるマ》シリーズ、雪乃紗衣『彩雲国物語』と、ライトノベル発の原作ばかりだ。プロダクションIGにとっても児童文学は初挑戦で、この原作が持つポテンシャルの高さが窺える……と言ってもピンと来ない人には全然ピンと来ないでしょうが、とにかく大変な注目作なのである。
物語の舞台は、名前のない異世界。登場人物たちにとってはそこが世界なので、固有名詞をつけたりはしない道理。呼びにくくてちょっと不便だが、こういうリアリズムがシリーズ全編を貫いている。技術文明のレベルは中世初期の西洋程度。ただし、固有名詞や風土はなんとなくアジア大陸風だし、社会体制もオリジナル(古代日本を思わせる国も出てくる)。欧米型ハイ・ファンタジーの亜流ではない独自の世界が存在感をもってしだいに立ち上がってくる。
主役は、三十歳の女用心棒バルサと、十一歳の第二皇子チャグム。児童文学だというのに、修羅場をくぐってきた大人の視線から語られるのが大きな特徴だ。著者いわく、〈若さの名残を残してはいるけれど、もう若い娘ではない、世間の裏の裏まで見てきた、経験豊かな大人の女が、閉じた宮のなかで神の子孫として育てられていた、無垢な少年を守って闘う、そういう話が心に浮かんできて、その物語を書きたいという衝動に突き動かされるようにして、一気呵成に書き上げた物語なのです。〉
母親のような年齢の“守り人”(ボディガード)でありながら、バルサは母性の象徴ではないし、恋人や娼婦の役回りでもない。彼女のような自立した職業女性が違和感なく受け入れられる世界(ジェンダー観からして違う世界)がリアルに構築されている。新ヨゴ皇国だの、サグとナユグだの、ニュンガ・ロ・イム〈水の守り手〉だの、見慣れない言葉に最初はとまどうかもしれないが、心配無用。そういう読者のための羅針盤として、最後に恩田陸の文庫解説から引用しよう。
面白い。下品な言い方だが、「モノが違う」。それが率直な感想だった。(中略)
偶然の縁で、女用心棒バルサが命を狙われる皇子を救うことになる見事な導入部。(中略)
この場面を読んで、作者は「私たちの世界」を描こうとしているし、この作品が「私たちのための」物語であると確信したのだ。
しかも、新潮文庫で初めて読む読者には、これから十巻分の長い楽しみが待っている。今までファンタジーが苦手だと思っていた人も、じっくりつきあってみる価値があることは保証する。すぐれた異世界ファンタジーの醍醐味を心ゆくまで堪能してほしい。
(おおもり・のぞみ 書評家)
波 2007年4月号より
目次
2 星ノ宮の〈狩人〉
3 たのまれ屋のトーヤ
4 放たれた〈狩人〉たち
5 逃げる者、追う者
2 呪術師トロガイ
3 トロガイの文
4 ヤクーの言い伝え
5 トロガイとの再会
2 秘倉に眠っていた手記
3 変化のはじまり
4 シグ・サルアを追って
5 襲いくる爪
6 ナナイの手記の結末
7 雲のみる夢
8 サアナンの風とナージの翼
9 もうひとつの運命の衣
終章 雨の中で
解説 恩田陸
解説 「精霊」のよみがえるとき 神宮輝夫
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人物紹介
チャグム 〈新ヨゴ皇国〉の第二皇子。
二ノ妃 チャグムの母親。
帝 〈新ヨゴ皇国〉の帝。
ヒビ・トナン 星読博士の最高位である聖導師。
シュガ 星読博士。
モン、ジン、ゼン、ユン 〈狩人〉とよばれる帝の隠密たち。
トーヤ たのまれ屋。
サヤ トーヤといっしょに暮らしている少女。
タンダ バルサのおさななじみ。薬草師。
ニナ ヤシロ村の少女。
トロガイ 当代最高と噂される呪術師。
ジグロ バルサの育ての親。
トルガル 〈新ヨゴ皇国〉建国の祖。
ナナイ およそ二百数十年前、トルガルを〈新ヨゴ皇国〉にみちびいた聖導師。