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おおあたり

畠中恵/著

693円(税込)

発売日:2018/11/28

  • 文庫
  • 電子書籍あり

金次の富札が百両以上の大当たりで、長崎屋はてんやわんや。福を呼び込む第15弾。

長崎屋にまたまた事件が。金次がもらった富札が百両以上の大当たりだったのだ! 噂を聞きつけた人々が金の無心に寄ってくる一方で、当たり札が偽物ではないかという疑いも出てきて――。栄吉の新作菓子の成功が招いた騒動に、跡取りとしての仕事を覚えたい一太郎の奮闘、場久が巻き込まれた夏の怪異、そして小僧時代の仁吉と佐助の初々しいお話も堪能できる、めでたくて晴れやかな第15弾。

目次
 序
おおあたり
長崎屋の怪談
はてはて
あいしょう
暁を覚えず

 畠中さん、「日本橋の大だんな」に会いに行く
  対談 細田安兵衛氏(榮太樓總本鋪相談役)

書誌情報

読み仮名 オオアタリ
シリーズ名 新潮文庫
装幀 柴田ゆう/装画、新潮社装幀室/デザイン
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 352ページ
ISBN 978-4-10-146136-6
C-CODE 0193
整理番号 は-37-16
ジャンル 歴史・時代小説、歴史・時代小説
定価 693円
電子書籍 価格 649円
電子書籍 配信開始日 2020/04/03

書評

全作品、違う魅力にあふれる驚異のシリーズ

大森望

デビューから見守る大森望氏が、拡大版書評で精力的に魅力を分析し、ミュージカルとコラボした特別版、『おおあたり 記念版』を長崎屋奉公人あゆぞう&おこぐがナビゲートします!

 第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した畠中恵の小説デビュー作『しゃばけ』が刊行されたのは、2001年12月のこと。お江戸・日本橋の大店を舞台に、病弱な若だんなと彼を守護する妖怪たちが力を合わせて事件を解決する。このユニークな設定と、柴田ゆうのキュートなイラストがウケてシリーズ化され、さらに人気が爆発。二度にわたってテレビドラマ化され、累計発行部数七〇〇万部以上(新潮文庫版だけで五三〇万部以上)の大ヒット作となっている。
 シリーズ開幕から数えて、今年でめでたく十五周年を迎えるわけですが、それを記念するように、三月にはビッグニュースが飛び込んできた。新設された吉川英治文庫賞の第1回受賞作「しゃばけ」シリーズが選ばれたのである。
 この賞の対象は、前年度に「シリーズの五巻目以降が一次文庫で刊行された小説のシリーズ作品」(ただし、すでに吉川英治文学賞を受賞している作家の作品は除く)。編集者、書評家、書店員合計五十人の投票で候補が選ばれ、その中から再度の投票によって受賞作が決まるんですが、公式サイトに発表された候補(全部で十二シリーズ)を見ると、赤川次郎「三毛猫ホームズ」、内田康夫「浅見光彦」、西村京太郎「十津川警部」、綾辻行人「館」など、錚々たるシリーズが並ぶ。それら超強力なライバルをおさえて栄冠を射止めたのは、「しゃばけ」シリーズが、いまいちばんホットなシリーズとして出版界から高く評価されている証拠。
 贈賞式の挨拶で、著者は、「(新人賞以外の)文学賞を受賞するのはこれが初めて。自分は賞には縁がない作家だと思っていたのでたいへんうれしい」と語っていたけれど、記念すべき第1回の受賞者になるという“おおあたり”を引き当てたわけで、これ以上ないかたちでメモリアル・イヤーがスタートした。
 あらためて概略を紹介しておくと、単行本は、二巻目の『ぬしさまへ』以降、年に一冊のペースで着実に巻を重ね、この七月刊行の『おおあたり』で十五冊目。シリーズ・タイトルの「しゃばけ(娑婆気)」とは、“俗世間における、名誉や利得などの様々な欲望にとらわれる心”のこと。人間界に渦巻く欲や情と、妖怪たちとの関わりが物語の軸になる。
 主人公は、日本橋の廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の跡取り息子、一太郎。生まれついての虚弱体質で、すぐに体調を崩して寝込んでしまうため、めったに外出もできないが、ひとつだけ、他人にはない力がある。祖母が大妖(狐のあやかし、皮衣)だったため、妖怪や神様の姿が見え、話をすることができる。人間の姿に化けている手代の佐助と仁吉をはじめとするおなじみの妖怪たちの力を借りてさまざまな事件を解決してゆくというのがシリーズの基本。江戸版「アダムス・ファミリー」または「怪物くん」、あるいはぜんぜん漫遊しない「水戸黄門」(手代コンビが助さん格さんの役どころ)みたいな構図ですが、ミステリー的には安楽椅子探偵もののバリエーションとも言える。実際、最初のうちは“大江戸人情推理帖”なんてキャッチフレーズもついてましたが、だんだん物語の幅が広がり、“日常の謎”や、あんまりミステリーっぽくない出来事が描かれる話も増えてくる。
 一方、妖や神々を中心に見ると、日常に不思議なものが同居する“エブリデイ・マジック”型のロー・ファンタジー(現実からの飛躍度が低いファンタジー)に分類される。「となりのトトロ」や、佐藤さとる「コロボックル」シリーズなんかの系統ですね。それらと同じく、「しゃばけ」の江戸では人間の暮らしの中に妖が同居して、わいわいがやがや楽しく過ごしている。彼ら、キャラの立ちまくった個性的な妖たちの魅力が人気の秘密。
 長崎屋の手代として仕える二人は、ともにお稲荷様から使わされた妖で、六尺近い偉丈夫の佐助は犬神、優男の仁吉は白沢(中国の神話に出てくる幻獣)。そのほか、身の丈数寸(たぶん十数センチ)の小鬼で、家をきしませて「きゅわきゅわ」と鳴く“鳴家やなり”とか、離れに置かれた古い屏風が変じた付喪神の“屏風のぞき”がレギュラー出演者。さらには鈴の付喪神の“鈴彦姫”、貧乏くさい坊主の姿の“野寺坊”、貧乏神の金次、獺、見越の入道、蛇骨婆……。神様である市杵嶋比売や品陀和気命(生目神)は、時間を操り、現実を自在に変えてしまう力を持つ。
 人間の主要登場人物では、一太郎の父親で長崎屋の主人の藤兵衛、美しい母・おたえ、腹違いの兄・松之助、それに、菓子屋の跡取り息子なのに、なかなか菓子作りが上達しない栄吉(まんじゅうがとくに不得手)、腕利きの岡っ引き、日限ひぎりの親分こと清七などなど。
 こういう多彩なキャラがわいわいやってるだけでもじゅうぶん楽しいが、長寿ドラマ的なマンネリに陥らず、毎回趣向を凝らして新しい試みに挑戦しているのもすばらしい。最初の『しゃばけ』しか知らない人が最近作を読むと、巻ごとの振り幅の大きさに驚くんじゃないですか。僕自身、九冊目の『ゆんでめて』を読んだときは、驚天動地のラストに「こ、こんなのあり?」と仰天しました。よくこんなこと考えるなあというか、見上げたチャレンジ精神。巻をまたいだ伏線の回収など、緻密な計算も見てとれる。
 もっとも、著者自身は、あらかじめきっちり設計図を引いてから書きはじめるタイプではないらしい。女優の相武紗季との対談では、こんな風に語っている。
“私の場合は、書き始める前からすべてを完璧に決めているわけじゃないんです。何となく、こういう雰囲気のお話になるだろうという、物語の輪郭みたいなもの、おおまかなプロットは作っているんですが。ただ、キャラクターたちが、私から少し離れて各自勝手に動き始めることもあります。ここでこう動いてくれたら都合がいい、そういう方向に登場人物を追い込もうとするんですけど、自分たちの行きたいように進んでいくこともあって。「好き放題やりたい放題はやめてくれ~」としかりたくなることもあります(笑)。最初はそんなつもりじゃなかったのに、急に存在感を増していくキャラクターもいたりして、面白いですよ。逆に、今回は登場させようと決めていたのに、書き終えたときに、あれそういえばあの子が出てこなかった、ということもあります。不思議です”(〈波〉2012年7月号より)
 キャラクターのこういう“自主性”が「しゃばけ」シリーズの意外性の秘密かもしれない。
 さて、最新刊となる『おおあたり』は、題名の通り、いろんなタイプの大当たりが通しテーマになる。
 第一話「おおあたり」は菓子屋の栄吉が主役。よみうり(瓦版)の占いが「世に“大当たり”するものあり。来るのは幸か不幸か、お楽しみ」と予言したとおり、栄吉の考案した新商品の辛あられが大当たりをとるが、栄吉はそれがもとで、結婚か修業か、人生の決断を迫られることに……。
 続く「長崎屋の怪談」は、落語が発端になる。悪夢を食う獏が、よく恐ろしい夢の中で出くわすのが、“大あたり”という言葉なのだと前置きして、怖い夢に悩まされる男の怪談噺を語りはじめる場久師匠。やがてそれが、意外な人物の失踪事件に発展し、大騒動が持ち上がる。
「はてはて」に出てくるのは、大当たりと言えばやっぱりこれ! の宝くじ。貧乏神の金次が上等の菓子を山と抱えて歩いていたところ、横から飛び出してきた男にぶつかられて菓子が台なしに。男は詫びのしるしにと増上寺の富札を押しつけて去るが、なんとその札が三百両の大当たり。ところが同じ富札がもう一枚出現し……。
「あいしょう」は、一太郎が五つの頃に関わった誘拐事件を描く(本書の中では)番外編。大妖に頼まれて、心ならずもコンビを組んで一太郎の守り役をつとめることになった仁吉と佐助の微妙な関係が物語の焦点になる。
 最終話「暁を覚えず」は、大切な客人を海辺で接待しようと、一太郎ががんばる話。そのために使うのが猫又の妙薬“暁散”。飲むとまる一日寝てしまうが、次の一日は元気に過ごせるのだという。一方、海に行きたい妖達は、お供の三人をまんじゅうのくじ引き(栄吉がつくった以外のまともなまんじゅうを食べたら当たり)で決めようとする……。
 とまあ、いろんなタイプの“おおあたり”が一冊の中で変奏される。読者の予想は裏切っても、期待はけっして裏切らず、今回もきっちり楽しませてくれる。

(おおもり・のぞみ 書評家)
波 2016年8月号より
単行本刊行時掲載

インタビュー/対談/エッセイ

祝『しゃばけ』ミュージカル化! 『おおあたり 記念版』の謎に迫る

長崎屋奉公人 あゆぞう、おこぐ&鳴家

記念版に付いている「コラボ特製ブック」と「朗読ダウンロードカード」。キャストと一緒に、ミュージカルを先取りして楽しめます!

おこぐ さっき「」の表紙をちら見しちゃったんだけど、超イケメンが三人も載ってて興奮しちゃった! あゆぞう、誰だか知ってる? しかもどうやら、私たちが登場させていただく号の表紙らしいのよ。
あゆぞう それは間違いなくこの記事が掲載されている「波」の表紙です。あゆぞうも表紙作りのお手伝いをしました。
おこぐ なら話が早いわ! 誰なのか、さっさと教えてよ!
あゆぞう ……っていうか、知らないんですか? 2017年1月に『しゃばけ』がミュージカル化されるんですが、そのキャストさん達ですよ! 表紙の下から時計回りに、植田圭輔さん、滝川英治さん、藤原祐規さん。「しゃばけ」シリーズの公式HP「バーチャル長崎屋」で告知してるんですけど、ちゃんと見て下さいよ。長崎屋奉公人としてどうなんですか。
おこぐ ごめんごめん、最近忙しくてさぁ。イケメンで賑わっているなとは思っていたんだけど。え、え~と、人気者なの?
あゆぞう お三方ともに、舞台やドラマを中心に活躍する、今をときめく人気者ですよ! ちなみに、おこぐねえさん、〈2.5次元〉って知っています?
おこぐ 2次元と3次元の間!
あゆぞう 間違ってはいませんが、「イラスト・アニメ風2次元の世界と実際の人間・実写による3次元の世界の、何らかの狭間を指す単語」(「ニコニコ大百科」より)と定義されている言葉で、主に、コミック原作のミュージカル化作品を指すことが多く、今、その世界はどんどん広がっているんです。
おこぐ なるほど。私も「テニスの王子様ミュージカル」は知っているよ。「テニミュ」でしょ?
あゆぞう その通り! 「テニミュ」は〈2.5次元〉の代表的存在で、滝川さん、藤原さんも出演されていました。今回の『しゃばけ』のミュージカルもまさに〈2.5次元〉の世界観で上演され、この世界の星になるべく皆でがんばっているのです。そのため今年は、通常版だけではなく、『おおあたり 記念版』も出版したのです!
おこぐ なるほどぉ。記念版はミュージカルとのコラボなのね。
あゆぞう 充実のラインナップです。さぁ、鳴家!
鳴家 中身は、この鳴家博士が紹介するぞ。きゅわ。

スペシャルコンテンツ1 朗読ダウンロードカード
 キャストの三人が『しゃばけ』の第一章「暗夜」を朗読してくれたのだ! ハイカラなシステムで、スマートフォンかパソコンが必要だが、鳴家にも出来たくらいだから簡単だ。カードに記載されているURLにアクセスしてPINコードを入力するだけ! それだけで彼らの美声が聴けるぞ~。

スペシャルコンテンツ2 コラボ特製ブック
 キャスト三人が和装に変身! 完全撮り下ろしのビジュアルが掲載されているぞ。もちろん、オフショット付き。さらには、「暗夜」も完全収録。朗読を聞きながら、「暗夜」を読むのはいかがかな。きゅわわ。
あゆぞう 鳴家博士、ありがとう! さらに特典として、特製ブックの中のある写真に携帯をかざすと、彼らのAR動画を見れちゃいます。これはもう、特別すぎる~。
おこぐ カードの三人の写真、超かっこいいね。パスケースに入れて、持ち歩きたいな。
あゆぞう ブックレットもオシャレなデザインなので、カバンの中にいつも忍ばせてください。それではみなさん、どうぞよろしくお願いいたします!

波 2016年8月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

畠中恵

ハタケナカ・メグミ

高知県生れ、名古屋育ち。名古屋造形芸術短期大学卒。漫画家アシスタント、書店員を経て漫画家デビュー。その後、都筑道夫の小説講座に通って作家を目指し、『しゃばけ』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。また2016(平成28)年、「しゃばけ」シリーズで第1回吉川英治文庫賞を受賞する。他に「まんまこと」シリーズ、「若様組」シリーズ、「つくもがみ」シリーズ、『アコギなのかリッパなのか』『ちょちょら』『けさくしゃ』『うずら大名』『まことの華姫』『わが殿』『猫君』『御坊日々』『忍びの副業』などの作品がある。また、エッセイ集に『つくも神さん、お茶ください』がある。

畠中恵「しゃばけ」新潮社公式サイト (外部リンク)

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