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スーパースターの座右の書



 Yonda?Mail購読者の皆さん、こんにちは。

 Google検索ボックスに“なつめろ”と入力したら、検索候補に“懐メロ 90年代”と出てびっくりしました。90年代ってついこないだのように思っていたのに。世間的にはもう懐メロなのですね。まさに十年一昔。

 しかし10年、20年と時が過ぎても価値を減ずることなく、それどころか新たな世代をも魅了する懐メロもあると思うのです。たとえば昨年、海外から人気に火がついた、由紀さおりさんの「夜明けのスキャット」のように。

 80年代から90年代初頭のいわゆるバブルの時代、華やかな世相を背景に数多くのヒット曲が生まれました。それらの中でもひときわ輝きを放つ名曲を生み出し、時代を駆け抜けた一人のミュージシャンがいます。

 その名は尾崎豊。30、40代の方にはいまさら説明する必要もないスーパースターでしょう。「I LOVE YOU」「OH MY LITTLE GIRL」「卒業」などの名曲は、今なお多くの日本人の心を捉えて離さない、まさに永遠のスタンダードです。

 20年前の4月25日に不慮の死を遂げた尾崎さんは、大量の未公開ノートを遺していました。悩みや焦燥を赤裸々に綴った日記、名曲の原型、落書き、サインの練習まで。生々しい筆跡からは、自分の内面を見つめ、最善の表現を求め続けた尾崎さんの喜怒哀楽がひしひしと伝わってきます。

小説新潮」4月号(3月22日発売)では、その尾崎さんの「肉筆ノート」を大特集。100ページ近くを使い、他では読めない手書きの筆致をそのまま紹介しています。そして膨大なノートの中身を詳細な註とともに活字化した単行本『NOTES―僕を知らない僕 1981-1992―』も、4月6日に小社より刊行されました。

 尾崎さんは数多くの本を読み、本からさまざまなインスピレーションを得ています。彼が愛した数々の本の中でも、座右の書と呼ぶべきものが沢木耕太郎さんの著作でした。

 尾崎さんからの希望で対談を行った沢木さんは、その夜、彼の行きつけの店へ誘われ、誰もいない店でギター一本のライブを聴いたと、エッセイ集『ポーカー・フェース』に書いています。そんな一期一会の何年か後、ドイツの空港で尾崎さんの死を知った沢木さん。死後、公開された写真の書棚に、自分の本を見いだした沢木さんが抱いた悔いとは…。

 尾崎豊さんが愛読したエッセイ『チェーン・スモーキング』、ノンフィクションの『一瞬の夏』(上・下)、『人の砂漠』などを、現在新潮文庫でお読みになることができます。また、紀行文学の金字塔『深夜特急』や、『』、『』、『血の味』など、沢木さんの傑作群も新潮文庫に収録されています。

 過ぎ去りし20年を振り返り、尾崎を聴きながら読むもよし。初めて尾崎を聴きながら、沢木作品に触れるもよし。どちらも永遠のスタンダードなればこその楽しみです。


(K・Y)

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2012年04月10日   今月の1冊
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