新潮文庫メールマガジン アーカイブス
今月の1冊


「私が好きなものって何だっけ......?」忙しい日々の中で、ふとそう思うことはありませんか。今夏、好きなものを100個書きとめておける『きろくのほん』が新潮文庫から刊行されました。
 クリーム色のカバーをひらけば、なかは100項目分のドット方眼のページ。メモでもイラストでもコラージュでも自分の好きなスタイルで記録を残すことができます。また、通常の新潮文庫と同じスピン(栞紐)やページ番号のほか、自分で書き込める目次もついているので、あとから見返すのも簡単です。
 最近読んだ本や観た映画の感想、推し活日記、チケットや写真をコラージュした旅の思い出帳、勉強や部活の進捗記録......など使い方は十人十色。書く内容ごとに複数冊持つのも良いかもしれません。

 ページのなかには、他にも新潮文庫らしい「仕掛け」があります。新潮文庫のシンボルであるブドウマークが、時折ページ右上に出現するのです。このブドウマーク、じつはいくつか種類があるというのはご存じでしょうか? まず新潮文庫の表紙に印刷された正式なシンボルマークのブドウ、次に本扉(表紙をめくった最初のページ)にある葉っぱつきのブドウ、そして3つ目が今回『きろくのほん』のページに使用した粒数の少ないブドウ(先の2つは13粒ですが、このブドウは10粒です)。この10粒ブドウは、1960年代後半、先の2案と変化をつけて文庫カバー専用にデザインされたものでした。今ではごく限られたカバーにひっそり残るレアなマークですが、『きろくのほん』では10項目ごとにページ右上に現れ、100項目めのページにちょうど完成形の10粒ブドウが現れるデザインとなっています。

 1行だけでも、殴り書きでも、書きかけでも、すべて愛すべき「あなたのきろく」。自分の「好き」がつまった、世界でたったひとつの一冊をつくってみませんか。

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2026年07月15日   今月の1冊


 毎年恒例の夏に行われる書店フェア「新潮文庫の100冊」は今年で50周年。これを記念して現代を代表する超豪華な作家陣(伊坂幸太郎さん/江國香織さん/恩田陸さん/梨木香歩さん/町田そのこさん/宮部みゆきさん/米澤穂信さん)に「夏」をテーマに短編を書き下ろしていただきました。ここでしか読めない短編が揃った一冊になっています。

 描かれている物語はどれも一級品で、各作家の魅力を存分に味わうことができます。伊坂幸太郎さんの描く名探偵、町田そのこさんが描く甘酸っぱい恋愛、恩田陸さんの描く青春ホラーなどなど......。様々なジャンルが詰まった、どの世代の誰にとっても楽しめる一冊になっています。初めて本を読む入り口としてもピッタリです。

 そして今回の装幀には、「新潮文庫の100冊」が始まった1976年の小冊子デザインをモチーフにした初回限定カバーをご用意しています。通常の新潮文庫のカバーと異なる手触りの良い厚手の紙を使用し、タイトルには箔を押すことで紙の本で持っていたくなるような美麗な一冊に仕上げました。ぜひ書店に足をお運びください。

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2026年07月15日   今月の1冊


『青い壺』『悪女について』『恍惚の人』『非色』『華岡青洲の妻』......数々の話題作を遺した有吉佐和子が20代後半から30代前半で発表した珠玉の名作たちを、新潮社より新装復刊しました。

 初めて読んだ有吉佐和子作品がどれだったか、覚えていますか?
『悪女について』『華岡青洲の妻』......生前に発表された作品は映像化されたものがたくさんあるので、先に映画やドラマから触れた人も多いかもしれません。社会現象にもなった『恍惚の人』の大ヒットによって、新潮社の本館の向かいに別館ビルが建てられ、「恍惚ビル」の別名がついたという逸話もあります。
 数々の話題作を残した著者は、実は53歳という若さでこの世を去りました。圧倒的筆力は、若い頃からエンジン全開。本書『役者廃業・三婆』に収録された作品たちはどれも、いまならアラサーと呼ばれる年齢で執筆されたものです。端正な工芸細工のような日本語、比類のないストーリーテリング、作品を深く掘り下げるジャーナリスティックな視点。いま読んでも「新鮮」な傑作ばかりです。

 今作の帯には、収録作「亀遊の死」を舞台化した際の名演が評判となった坂東玉三郎さんから推薦のコメントをいただいています。

 毎日有吉先生の台詞をしゃべっていると、
 有吉さんが私の側で語りかけているような気がします。
 愛と哀歓で世の中と人間の全てを洞察している先生の視線。
 見えてしまえばこそ、さぞ辛かったであろうと思いながらも、
 私は先生の作品が大好きなのです。

『青い壺』で初めて有吉佐和子を知った、という若い読者のみなさんにも、ぜひ手に取っていただきたい貴重な短篇集となっています。舞台「三婆」で、長年タキ役を好演してきた渡辺えり氏による新解説も必読です。

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2026年06月15日   今月の1冊


「芦花公園」という作家をご存じでしょうか。
 正体も性別も不明のまま2021年にデビューするやいなや、令和のホラー界を騒がす鬼才として次々と新作を発表。静かな筆致で人間の奥底を抉る作風は、いま最も注目すべき新世代ホラーと言えるでしょう。

 芦花公園さんの作品には、読者の記憶に強く残る人物が数多く登場しますが、本作『食べると死ぬ花』に現れる久根ニコライもまた、そのひとりです。
 最愛の息子を喪った母親。義母のいじめに耐える妻。取り返しのつかない罪を犯した男。
 そんな絶望を抱く人々の前に、ニコライはふいに姿を現します。そして不思議な品物を差し出し、ひとつの「救い」を与えるのです。それらを使えば、運命を変え、願いを叶え、喪ったものを取り戻すことができる、と──。

 本書は、ある家族をめぐる連作ホラーミステリなのですが、一話ごとに独立して楽しめる物語でありながら、読み進めるうちに奇妙な違和感が積み重なります。そして最後に、散りばめられていた謎がひとつに結びついた瞬間、それまで見えていた世界がまったく違う姿を現します。

 それは奇蹟なのか、それとも呪いか。

 更に、今回の文庫化に際し、60ページを超える最終章「診断の鍵」を書き下ろし収録いたしました。単行本刊行時から作品世界に惹かれていた読者の方はもちろん、芦花公園作品を初めて読む方にもおすすめしたい一冊です。
 すべての謎が繋がるとき、あなたの前に久根ニコライは姿を現す。人間の欲望を抉り出す、極上のホラーミステリを、どうぞご堪能ください。

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2026年06月15日   今月の1冊


「『東京都同情塔』には、全体の5%ぐらい、生成AIの文章を使っている」
 2024年1月、芥川賞選考会後の記者会見での著者の発言は、日本のみならず、世界でも大きな話題を呼びました。
 ──日本で最も権威ある文学賞のひとつ芥川賞が、AIの使用を認めた。
 そんな、どちらかと言えば否定的な驚きとともに刊行された本作は、しかし、AIへの敗北を認めたものでは決してありません。むしろ生成AI時代の「つくること」のあり方を鋭く問うた小説として、人間の描くあらたな物語の時代の到来を予期させるものでした。
 実際、その後『東京都同情塔』は世界16ヶ国での翻訳が決定。イギリスのFinancial Times 「Best Books of 2025」に選出、アメリカの The Paris Review 「Our Favorite Books of 2025」で紹介されるなど、当初の否定的な声を見事に覆し、絶賛の声を浴びています。"Rie Qudan"は、いま世界でもっとも注目される日本人作家のひとりと言えるでしょう。
 本作には、あり得たかも知れない「もうひとつの東京」が登場します。ザハ・ハディドがデザインした新国立競技場が建設されているifの未来。物語は、主人公の建築家・牧野沙羅が、〈同情されるべき人々〉【ホモ・ミゼラビリス】の暮らす新時代の刑務所・シンパシータワートーキョーのコンペに参加するところから始まります。そして空虚な言葉と正義が支配する東京に沙羅のデザインしたタワーがそびえ立つとき、建築が、言葉が、現実をデザインしていることに私たちは気づくのです。
 今回、文庫化に際し「ユリイカ」(青土社)掲載の短篇「Planet Her あるいは最古のフィメールラッパー」を特別収録いたしました。加えて、ふたりの建築家──永山祐子さんとの対談、青木淳さんによる解説も掲載。現実の建築家と架空の建築家が響き合う、作品をより立体的に楽しめる一冊となっています。
 作家・九段理江の建築した『東京都同情塔』の世界を、ぜひ存分にお楽しみください。

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2026年05月15日   今月の1冊