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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

明けましておめでとうございます。

 年末年始に海外に行くとか何か珍しい経験でもしていれば、それをご報告するところですが、生憎ずっと家にいて、本を読み、テレビを見て、時々料理をして、食べて寝て……の繰り返しで何もありません。スポーツ選手ってオフのはずなのに、年末年始にやたらとどうでもいい「対決」させられているなあ、というくだらない発見くらいしかできませんでした。

 そこで今年はじめのメルマガなので、今年はじめて出す1月の新刊4点の「はじめに」(もしくは「まえがき」)から印象的な文章を拾ってみます。

「今日の日本社会の混迷、もっと特定化して言えば、言論におけるタガのはずれ方を生みだしたものは、大きく言えば、戦後日本で、われわれがその上に社会を組み立ててきた価値が借りものであり、そのことの意味を分かっていなかったからだ、ということです。
 もっと端的に言いましょう。戦後日本の「自由」「民主」「平和」「富の増大」「ヒューマニズム」「幸福追求」などという価値はどこか借り物であり、われわれの腑に落ちていないからです。」(『日本の宿命』佐伯啓思・著)
「思えば、この十数年間、政治は常にキーワードで動いてきた。「構造改革」「政権交代」「政治主導」「脱官僚」……。それぞれが重要な問題であったのに、いつも議論がうやむやになり、先の衆院選でも争点が曖昧だったのは、リアリズムの欠如、現実主義の欠如が大きな原因だったのではないかと思う。
 政治家の仕事は、大きな理想を述べるのも大切だが、現場にある山ほどの課題を正しく認識し、一つ一つを丁寧に解決していくことなのではないか。」(『原発と政治のリアリズム』馬淵澄夫・著)
「確かに、武士道は規範や心得であり、キリスト教は宗教という大きな違いはあります。ただ、どちらも人の死に方、生き方を真剣に問う「道」です。そしてともに、死を前提にした生を考え、死の後にある生を教えています。言い換えれば、どちらもいかに死ぬかによって生を見つめ、いかに生きるかによって死を追究しているのです。」(『武士道とキリスト教』笹森建美・著)
「国のかじ取りをする政治でも、社会のエンジンたる経済でも、リーダー不在が叫ばれて、すでに長い時間が過ぎてしまっています。
 しかし、リーダーとなるべき人材が、この日本に本当にいないとは、私には到底思えません。おそらく、現在の日本社会の第一線で活躍している中堅層の中に、明日の日本の素晴らしいリーダーとなるべき人材が、まだ埋もれているだけなのだと信じています。
 そもそもリーダーにはどんな資質が必要なのでしょうか。カリスマ性、先見性、決断力など、さまざまな要件が挙げられると思いますが、私はなによりも人間性、なかでも「つよさ」と「やさしさ」を挙げたいと思います。」(『男の貌―私の出会った経営者たち―』高杉良・著)

 4点とも、年初にふさわしいスケールの大きな作品ばかりです。
 今年もよろしくお願いいたします。

2013/01