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新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

言いがかりの話

 少し前に出た『本の雑誌』3月号の「装丁がんこ堂」というコラムで、新潮新書のオビについて触れていました、というか批判していました。
 要旨をまとめると、
「たまたま書店で手に取った2冊の新潮新書のオビを見比べて驚いた。あきれた。デザインも色も書体も全然違う。これでは新書のフォーマットを統一している意味がない。しかも片方には著者写真が掲載されているのにもう片方には掲載されていないではないか」
 といった内容でした。

 他人が何に驚こうがあきれようが自由なのですが、ほとんど言いがかりのような内容には、こちらも驚き、あきれました。
 知る限り、どの版元の新書でも本によってオビの色や書体、デザインが異なるのはごく普通のことです。これは今に始まった話ではありません。今さら何を驚いているのか、さっぱりわかりません。
 もっと酷いと思ったのが著者写真についてのコメントです。確かに取り上げたうちの1冊は、著者の写真が掲載されていませんが、それはご本人の希望を汲んでのこと。新潮新書では基本的には著者写真を掲載していますが、強制はできませんから、年に何冊かは、著者写真ナシ、というものがどうしても出てきます。これもどの版元でも同様でしょう。
 たまたま手に取った2冊で著者写真の扱いに違いがあったことを批判の材料にするというのは無茶苦茶な話だと思いました。

 週刊誌記者の頃に、記事の対象人物からこんなことを言われたことがあります。
「本当のことならば、厳しい内容でも仕方ないと思うけれど、ウソが前提になっていると本当に腹が立つんだよね」
 久しぶりにそんな言葉を思い出しました。

 3月の新刊をご紹介します。

戦国武将の明暗』(本郷和人・著)は、東京大学史料編纂所教授が面白く柔らかくしかも深く戦国時代についての考察を繰り広げた一冊。少々の脱線も交えながら、「明智光秀はなぜ全国統一できなかったのか」といった謎を鮮やかに解いていきます。

勝負論』(青木功・著)は、プロゴルファー生活50周年を迎えた著者が語る勝負の精髄。勝つために必要な楽観的思考とは何か。興味深いエピソードと共に語られる教訓は、ゴルファーならずとも学びたいものばかりです。

寂しさの力』(中森明夫・著)は、作家でありアイドル評論家でもある著者の魂の叫びが聞こえてくるような内容です。著者自身が若いころに味わった「さみしさ」を赤裸々に告白しながら、スティーブ・ジョブズ、ウォルト・ディズニー、酒井法子等「さみしさ」をバネに成功した人々についての考察を進めます。「人間のもっとも強い力は、さみしさの力だ」というメッセージには深く頷かされることでしょう。

日本人が知らない漁業の大問題』(佐野雅昭・著)は、著者の「魚愛」が炸裂した一冊。ニュースでは「マグロやウナギが危ない」といったテーマばかりが扱われがちですが、漁業の抱える本当の問題はそこにはない、と鋭く指摘しています。熱い筆致に、漁業をどうにかせねば、という気持ちにさせられます。

 以上4冊。
 言いがかりは嫌ですが、真っ当な批判は歓迎です。どうぞ手に取ってみてください。

2015/03