新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

サザンの話

 音楽が好きなので、関連の書籍や記事をよく読みますが、ずっと不満だったことの一つは、どうもこっちの記憶と異なる「歴史」が書かれていることです。日本のロックに関しては、「はっぴいえんど」が巨大な存在として描かれるのが定番で、ベストアルバム選の類でもかならず上位に入る。「ここからすべてが始まった」式の言い方がセットになっています。
 しかし、本当に日本のロックが大衆化したのは、もう少しあとの時代だと思うのです。サザンオールスターズ、ツイスト、ゴダイゴあたりが「ザ・ベストテン」の常連だった時期、つまり70年代後半です。
 もちろん「はっぴいえんど」は素晴らしいのですが、どうも歴史が捏造されている印象が否めません。そもそも「すべてが始まった」と書いている人が、私よりも若かったりすると、「一体あんたは何を知っているというのか」とケチの一つもつけたくなるのです。個人的にはサザン以前の原田真二もかなり重要だったと思いますが、そんなことはもうほとんどの人が忘れています。

 7月新刊『サザンオールスターズ 1978-1985』(スージー鈴木・著)は、そういう不満が一掃される画期的な音楽本です。1978年はサザンのデビュー年。そこから1985年までのサザンの革新性について、徹底的に論じた本書を読めば、誰もが初期のサザンオールスターズを聴いてみたくなるはずです。
 他の3点もご紹介します。

マル暴捜査』(今井良・著)は、暴力団等組織犯罪の捜査の頂点に立つ、警視庁組織犯罪対策部、通称・組対(ソタイ)の徹底解説。このソタイには1000人もの捜査員がいるというから驚きです。逆に言えば、東京だけでもそこまでの人員を割かなければ取り締まれないということなのですから、これもまた驚きです。刑事たちの素顔も垣間見えるので、警察小説好きにもお勧めします。

メディアの驕り』(廣淵升彦・著)は、ベテランのジャーナリストによる魂のメディア論。著者は元テレビ朝日......と聞くと、ある種のスタンスを連想されがちですが、実はそういう傾向は比較的最近のものであることがわかります。「まっとうな報道」とはどういうものかがよくわかるはずです。

誰も知らない憲法9条』(潮匡人・著)は、このところ議論の対象になることが増えた憲法9条に関する入門書です。ほとんどの人が、本書の書き出しには驚かされるかと思います。なにせ、私たちが読んだ「憲法9条」はニセモノで、ホンモノをちゃんと読んだ人はほとんどいない、というのです。「そんなバカな」と思ったらぜひ開いてみてください。たしかに、私はホンモノを知らなかったと思い知らされました。
 オビのコピー「総理も憲法学者もわかっていない」に偽りなし、です。
 憲法9条を巡る多くの言説も、一種の捏造された歴史をもとにしている、と言えるかもしれません。
 まあサザンの件を考えると、70年代のことでも、人は記憶を塗り替えるのですから、いわんや戦後間もない頃のこととなると、相当いい加減なのも仕方ないのでしょうか。

   7月も新潮新書をよろしくお願いします。
2017/07