新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

バブルの話

 20代、30代の方とお話をしていてギャップに驚くのは「バブル」についての見方です。どうもその時代は日本中がウハウハだったように思っている方が多いのです。
 しかしその頃、地味な大学生、あるいは張り込みとか聞き込みとかを主にやっていた私は、ウハウハを感じたことはありませんでした。もちろん今よりも経済学的に見ればいい時代だったのでしょうが、個人の生活レベルとしてはウハウハ的なところはほとんどなかったのです。21世紀になってなおあの頃を理想の時代のように語る方は、多分その頃うまい汁を吸った方のような気がします。そういう方があの時代を必要以上に美化するから、誤解が生まれるのでしょう。

 1月新刊の『日本を蝕む「極論」の正体』(古谷経衡・著)は、 日本のあちこちに出現している「極論」の数々を一刀両断した論考。著者は「バブル賛歌」も極論の一種だとして、 その誤りを指摘しています。当時と今とで実は子供の貧困率に大差がない、といった指摘は非常に新鮮でした。 「何だか極端なことを言う人が多いなあ」と感じている方には精神の解毒剤としてお勧めいたします。

 他の新刊3点もご紹介します。

外国人が熱狂するクールな田舎の作り方』(山田拓・著)は、読むと元気になる内容です。飛騨古川という土地に「よそ者」として移住した著者は、地元の人には何の変哲もない田舎を「クールな田舎」としてプロデュースし、数多くの外国人が訪れる観光地に変えました。その実践を記録した本書には、観光や町おこしのみならず、様々なビジネスに応用できる視点が多く提示されています。いつの時代だって、やる人はやるのだということがよくわかります。
医者の逆説』(里見清一・著)は臨床医である著者による医療論。独特の視点には根強いファンが多くいます。ここには綺麗ごとも忖度も一切ありません。巷では「私、失敗しないんで」というお医者さんが大人気でしたが、著者は「そんな医者は信用できない」と断じます。その理由は本書で。
笑劇の人生』(芦屋小雁・著)は、演芸、お笑い好きには堪らない半生記。「てなもんや三度笠」等で人気を博し、テレビの黄金時代から活躍していた著者が様々な秘話を明かしています。兄である芦屋雁之助のことはもちろん、大村昆、勝新太郎、藤田まこと等々華やかなスターの名前が並びます。SF・怪奇映画マニアとしても知られる著者ならではの蒐集秘話も。

 小雁さんは、テレビの最も良い時代を知っている方ですが、別にその頃だけを美化はしていません。いつも人生を楽しんでいるように見えますし、そのことが本書をより楽しいものにしています。
 今年も新潮新書をよろしくお願いいたします。

2018/01